研究課題/領域番号 |
21H04752
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青木 不学 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 客員共同研究員 (20175160)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 遺伝子発現プログラム / ヒストン変異体 / 初期胚 / クロマチン構造 |
研究実績の概要 |
受精後の1細胞期胚での全能性に関わる遺伝子発現の特徴として、緩んだクロマチン構造に依存するゲノム全域からの広範な転写が起こることをこれまで報告者は明らかにしてきた。そこで、本年度は、そのメカニズムの解明のため、クロマチンの構成要素であるリンカーヒストンH1に着目して研究を行った。すなわり、ヒストンH1には多数の変異体があり、それぞれがクロマチン構造及び遺伝子発現の調節に異なった役割を持つことが明らかとなっている。そして受精後に全能性を獲得した1細胞期胚では、それら変異体の中でクロマチンの緩みに関わっていると考えられているH1fooとH1aのみが多く発現しており、これらがこの時期の遺伝子発現の調節に関わっていることが考えられた。しかし、これまでの研究でH1fooをノックダウンしても発生に影響が見られなかったことから、そこで、本年度はH1aのノックアウト(KO)マウスをCRISPR/Cas9法によって作成し、その発生を調べると共にH1fooのクロマチンへの取り込みの影響を調べた。その結果、H1a遺伝子を欠損したマウスの作製に成功し、ヘテロKOマウス同士の交配したところ、誕生したホモKOマウスの割合がメンデル比で期待されるものよりの少なかった。さらに、H1a KOの初期発生への影響を調べたところ、2から4細胞期への発生利率がやや低下し、さらに胚盤胞期までの発生率が大きく低下していた。この低下は、母性のみの欠損においても完全欠損のものと同程度に見られたことから、H1aは母性因子として初期発生に機能していることが示された。また、H1a KO胚においてH1fooのクロマチンへの取り込みの増加は見られたかったことから、H1aの機能をH1fooが相補してはいないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1細胞期胚で多く発現しているH1aのノックアウト(KO)マウスを作成して、H1aの全能性獲得への関与、さらには1細胞期胚で多く発現するもう一つのH1変異体であるH1fooとの相補関係を明らかにすることを目的とした。その結果、H1a遺伝子を欠損したマウスの作製に成功し、その欠損が着床前初期胚の発生率に影響を及ぼしていることを明らかにした。特に、この発生への影響は遺伝子発現リプログラミングに関与していると考えられている母性由来の mRNAによるものであったことは、H1aがリプログラミングに関与しているという仮説と矛盾しない。さらに、発生への影響が受精後の大規模な遺伝子発現の活性化が起こる2細胞期に現れていたことも(2細胞期から4細胞期への発生率の低下)、H1aのリプログラミングへの関与を示唆するものである。さらに、H1fooとの相補性についても解析を行い、その可能性が低いことも明らかにした。 このように、本研究プロジェクトは、全体としてはここまでおおむね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上記進捗状況で示したように、H1aノックアウト(KO)マウスの作製に成功し、その欠損が母性因子として受精後の初期発生に影響を及ぼすことを明らかにした。しかし、H1aのホモ欠損においてさえ、半数ほどの胚は正常に発生していることから、他に遺伝子発現プログラムに重要な働きをしている因子があることが示唆される。また、前年度の成果として、H1fooの欠損も初期発生に影響を及ぼさないことがあきらかとなっている。そこで、今後の方策として、遺伝子発現に重要な働きを持つH3変異体に着目して研究を進める予定である。特に、これまでにH1変異体の存在が、H3変異体のクロマチンへの取り込みに影響を及ぼすことを報告者はこれまでに明らかにしており、H3変異体とH1変異体との相互作用を調べることで、遺伝子リプログラミングのメカニズム解明に関わる重要な知見を得られることが期待される。
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