研究実績の概要 |
本課題では、新たに発見したミツバチの病原細菌について、①幼虫に対する病原性の確認、②病原因子の探索、③検出法の開発、④野外における分布状況調査を行うことで、今まで見過ごされてきたミツバチの健康リスクについて明らかにすることを目指している。本年度の研究の進捗は以下の通りである。 (1)これまで、ミツバチ幼虫新規病原細菌としてPaenibacillus属2菌種およびBacillus属1菌種を見つけたと述べてきたが、2023年にPaenibacillus属に新菌種が提唱されたことで、新規病原細菌がPaenibacillus属3菌種(菌種A, B, Cとする)とBacillus属1菌種に分類されることが明らかとなった。これを受けて、Paenibacillus属菌A, B, Cを特異的に検出するリアルタイムPCR法を新たに開発した。 (2)Paenibacillus属菌のうち、①Aは既知の病原体であるアメリカ腐蛆病菌に近い強毒種であり、国産ハチミツから稀に検出されること、②BはAに次いで毒性は高いが、国産ハチミツからはほとんど検出されないこと、③Cは、毒性はA, Bには劣るものの、国産ハチミツから高頻度に検出されることが明らかとなった。 (3)ミツバチ幼虫は生まれて2日以上経つとPaenibacillus属菌に対する感受性が急激に低下した。また、Paenibacillus属菌Cは株間で毒性の強さに違いがみられた。Paenibacillus属菌A, B, Cは、保有遺伝子の種類に大きな違いがみられたが、病原因子である可能性がある莢膜、鞭毛、溶血毒、転写調節などの関連遺伝子を共通して保有していた。 (4)全国98名の養蜂家の協力のもと、養蜂場における病原細菌の分布状況調査に用いるR5年度のハチミツを収集した。また、各養蜂場における蜂群の健康状態について、年2回のアンケート調査を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1)新規病原細菌候補のヨーロッパ腐蛆病への影響の確認: 新規病原細菌候補のうち、国内のミツバチ飼育環境中から検出される頻度が最も高いPaenibacillus属菌Cを既知の病原体であるヨーロッパ腐蛆病菌とともにミツバチ幼虫に共感染させることにより、ヨーロッパ腐蛆病の症状の増悪化に関与しているかを検証する。ヨーロッパ腐蛆病菌は複数の菌株を使用し、供試菌の投与菌量を変えて、幼虫への影響を解析する。 2)ゲノム解析: Paenibacillus属の新規病原細菌候補株と、同じPaenibacillus属であり、ミツバチの病原体としてよく知られているアメリカ腐蛆病菌のゲノム配列を比較することで、共通の病原因子がないか探索する。 3)野外における分布状況と蜂群の健康状態への影響調査(3年目): 昨年度に引き続き日本養蜂協会と全国の養蜂家の協力のもと、全国から約90検体のハチミツを収集するとともに、そのハチミツが採取された蜂場におけるミツバチの健康状態や衛生管理手法等についてアンケート調査を行う。また、収集したハチミツから混入している細菌のDNAを抽出し、ミツバチの既知の病原体であるアメリカ腐蛆病菌とヨーロッパ腐蛆病菌およびPaenibacillus属菌A, B, Cの有無を菌種特異的リアルタイムPCRで定量的に検出する。 4)これまで得られたデータのうち、ミツバチ幼虫の感染試験結果と野外における分布状況のデータを中心に、論文を執筆する。
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