研究課題/領域番号 |
21H04760
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
一條 秀憲 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (00242206)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 膜タンパク質品質管理 / TOLLIP / VPS34 / 小胞体ストレス / ERAD / リソソーム |
研究実績の概要 |
小胞体で新規合成される膜タンパク質のうち、一部は折りたたみに失敗して小胞体に蓄積する。これら不良膜タンパク質は細胞毒性をもたらしうるため、プロテアソームやリソソームを介して速やかに分解される。しかし、プロテアソーム依存的なERAD経路の理解が進む一方、リソソーム経路の分子機構はほぼ未解明であった。申請者らのこれまでの研究から、小胞体に蓄積した不良膜タンパク質は、ユビキチン化され、ユビキチンレセプターTOLLIPに認識されて選択的にリソソーム分解へと導かれることが明らかとなった。本研究課題では、申請者らのこれまでの研究を発展させ、ゲノムワイドスクリーニング、インタラクトーム解析、高解像度イメージングなどを用いて不良膜タンパク質のリソソーム分解機構を多面的に解析し、この経路の全体像を明らかにすることを目的としている。 本年度は当初計画していた2つのパートについて、下記の通りの進展があった。 課題1)不良膜タンパク質のリソソーム分解に関与する因子の網羅的探索 本研究における小課題の一つとして、ゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーニングやインタラクトーム解析を用い、不良膜タンパク質のリソソーム分解や認識に関与する因子を網羅的に同定することを目指している。本年度は網羅的解析を行うためのツールとして、不良膜タンパク質を恒常発現する培養細胞株の樹立を行なった。 課題2)TOLLIP依存的な不良膜タンパク質のリソソームへの輸送機構 本研究課題の開始に先立ち、当研究室で不良膜タンパク質のリソソーム分解を促進する因子としてTOLLIPを同定していた。本年度はTOLLIP依存的な不良膜タンパク質の小胞体からリソソームへの輸送機構を解析した結果、lipid kinaseであるVPS34依存的な小胞輸送が関与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
下記のように課題1は当初の計画通りに進展しており、かつ課題2においてはTOLLIP依存的な分解経路の解析が当初の計画以上に進展しているため、この評価区分とした。 課題1)本年度はまず、疾患関連変異によりミスフォールディングして小胞体に蓄積する不良膜タンパク質のうち、盛んにリソソーム分解されるものがないか探索した。その結果、VAPBのALS変異体やConnexin50の白内障変異体が特に盛んにリソソーム分解されることが明らかとなった。これらをモデル基質として用いてゲノムワイドスクリーニングやインタラクトーム解析を行うために、これら不良膜タンパク質とCas9を恒常的に発現する培養細胞株を樹立した。次年度中にはゲノムワイドスクリーニングやインタラクトーム解析を実施し、その結果の解析を開始できる目処がついている。 課題2)TOLLIPが不良膜タンパク質を認識するメカニズムを解析した結果、ユビキチン結合ドメインCUEに加え、機能未知であったIDR(intrinsically disordered region)も基質認識に必要であった。さらに、TOLLIPがPI3P結合ドメインであるC2を持つことに着目して共焦点顕微鏡を用いた解析を行なった結果、TOLLIPは不良膜タンパク質をPI3Pが豊富な細胞質小胞へと輸送することが明らかとなった。PI3Pはエンドソームやオートファゴソームなど、最終的にリソソームと融合する小胞に豊富に含まれること、及びPI3P産生酵素であるVPS34を阻害するとTOLLIP依存的な不良膜タンパク質の分解が抑制されたため、不良膜タンパク質はこのPI3P小胞を経由してリソソームへ移行すると考えられる。このように、ドメイン解析からTOLLIPが不良膜タンパク質を小胞体からリソソームへと輸送する分子基盤が明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
下記のように2つの小課題を遂行する。 課題1)次年度はまず、インタラクトーム解析およびゲノムワイドスクリーニングを実施し、不良膜タンパク質の認識やリソソーム分解に関与する因子を同定する。同定した因子について、不良膜タンパク質分解において基質認識、ユビキチン化などの基質の翻訳後修飾、小胞体からの搬出などの様々なステップのうちいずれに関与するかを解析する。 課題2)TOLLIP依存的な不良膜タンパク質の分解に用いられるPI3P小胞の実体を解明する。具体的には、共焦点顕微鏡を用いて各種オルガネラマーカーと不良膜タンパク質の共局在を観察したり、不良膜タンパク質のTOLLIP依存的な分解にマクロオートファジーの必須遺伝子(ATG7、FIP200など)や小胞輸送関連遺伝子(VAMP8、STX17など)が必要かをこれらの遺伝子のノックアウト細胞を用いて生化学的に解析する。
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