研究課題/領域番号 |
21H04770
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長田 重一 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任教授(常勤) (70114428)
|
研究分担者 |
瀬川 勝盛 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (20542971)
櫻木 崇晴 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任助教(常勤) (10867906)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
|
キーワード | フリッパーゼ / スクランブラーゼ / リン脂質 / 三次構造 / 基質特異性 |
研究実績の概要 |
フォスファチジルコリン(PtdCho)は細胞膜の外層に存在する。一方、フォスファチジルセリン(PtdSer)はフリッパーゼの作用により、内層に局在する。リン脂質の非対称的な局在は様々な生物現象でスクランブラーゼの作用により崩壊する。私達は 細胞膜に存在する2個のP4-ATPases(ATP11A とATP11C)をフリッパーゼとして、TMEM16FおよびXKR8をCa2+あるいはカスパーゼによって活性化されるスクランブラーゼとして同定した。それでは、P4-ATPasesやTMEM16F、XKR8はどのようにしてリン脂質を細胞膜の内層と外層の間で転移させるのであろうか。フリッパーゼに関してはATPの結合、リン酸化、ヌクレオチドの解離に伴う構造変化がその機能に必須であることが報告されている。また、2量体として存在するTMEM16相同体の立体構造から分子の表面に親水性残基の溝が存在し、この領域にリン脂質の頭を差し込みリン脂質を移動させると考えられている。しかし、XKR8がどのようにリン脂質を転移させるか、フリッパーゼがなぜPtdSerを特異的に転移させるか不明である。私達はXKR8スクランブラーゼの構造解析に成功し、その変異体の解析からリン脂質の通過経路を予測した。一方、東北大学でATP11Aに変異を持つヒトの患者さんが見出されたことから、この変異体を発現する細胞を解析するとともに同等の変異を持つマウスを樹立、解析し、この変異がATP11Aの基質特異性を変化させ、PtdSerばかりでなくPtdChoをもflippingすることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
A)XKR8 スクランブラーゼの作用機構 ヒトXKR8はBasiginと1:1のダイマイーを形成する。この複合体をSf9細胞で産生・精製し、Cryo-EM解析によりその構造を決定した。その構造は細胞質側に広がった長方体の形状をしており、その表面にはPtdChoが挿入された疎水性の溝が存在した。また、その溝の分子中央側には10個の親水性のアミノ酸が階段状に配置された空間が存在し、リン脂質はこの空間を通過して転移すると考えられた。そこで、これら残基に変異を導入した結果、4個のアミノ酸は分子の安定性、6個のアミノ酸はスクランブラーゼ活性に必須であることが判明した。一方、階段状に配置された親水性アミノ酸の上部には Tryptophane (W) が存在し、この残基をAlanineに変異させると分子は構成的に活性化された。このことからこの残基はスクランブラーゼのgate keeperとして作用していると考えられる。
B) フリッパーゼのリン脂質特異性 様々な細胞で発現しているATP11AはPtdSerを特異的に細胞膜外層から内層へと移送させる。最近、東北大学においてATP11Aに点変異(Q84E)を持つ患者を見出した。そこで、同等の変異を持つマウスを樹立したところ、ヒト患者と同じような運動失調症の症状を示し、生後20週以内に死滅した。ついでこの変異体を発現する細胞の解析から、この変異ATP11AはPtdSerばかりでなくPtdChoを細胞膜外層から内層へ転移させることを見出した。細胞内に移動したPtdChoは、Sphingomyelin (SM) 合成酵素遺伝子の発現を誘導、合成されたSMは細胞膜外層へ移動した。その結果、細胞膜外層は高い濃度のSMを持ち、細胞はSM分解酵素などにより容易に死滅した。
|
今後の研究の推進方策 |
A)XKR8スクランブラーゼの作用機構 アポトーシス時に活性化されるカスパーゼはXKR8のC-末端部位 (40アミノ酸) を切断、XKR8はスクランブラーゼとして作用する。また、C-末端部位がリン酸化されてもXKR8はスクランブラーゼとして作用する。一方、昨年度、細胞外との境界領域に存在するW45をAlanineに置換するとXKR8は構成的に活性化されることを見出した。そこで本年度は、精製した XKR8/BSG複合体をカスパーゼで処理した後、あるいは構成的活性型であるW45A変異体の構造を、Cryo-EM法により決定する。その際、精製したタンパク質をナノデイスクに包埋した後の構造解析も試みる。
B) ATP 11Aフリッパーゼの生理作用 ATP11AとATP11CはともにPtdSerを細胞膜外層から内層へと移送させることから、redundantな作用を持つと考えられた。しかし、ATP11C遺伝子の欠損はB細胞減少症、ATP11Aの欠損はマウスに胎生期に死をもたらす。私達は以前、ATP11AはB-リンパ球には発現せず、ATP11C遺伝子を欠損したB細胞はフリッパーゼの欠如によりPtdSerを構成的に暴露、マクロファージによって貪食されることを示した。それではATP11A欠損マウスはなぜ、胎生期に死滅するのであろうか。まず、マウスが胎生期のどの段階で死滅するか検討し、その時期でのATP11A、ATP11C発現細胞を調べ、ATP11Aのみを発現する細胞を同定する。ついでその臓器特異的なATP11Aノックアウトマウスを作成し、胎生致死となるか確認する。確認できればATP11A遺伝子欠損によって起こる臓器の発達異常、死細胞の増加などを調べ、ATP11A遺伝子欠損による胎生致死の原因を解明する。
|