研究課題
種多様性の緯度勾配を説明する仮説として,熱帯は種分化速度が速いとする”種分化仮説”が近年注目を集めている.熱帯では,強い性淘汰圧がオスの二次性徴形質の多様化を促進する推進力になっているという実証研究が蓄積しつつある.しかし,二次性徴形質を異なる方向に進化させる遺伝機構は不明である.二次性徴形質に関わる遺伝子が性染色体と連鎖することで性特異的発現が達成されているなら,性染色体の置換は二次性徴形質の質的な変化をもたらすと考えられる. 本研究は,メダカ科魚類をモデル系に,性染色体の置換と分化が,熱帯における二次性徴形質の多様化に果たす役割を検証することを目的とする.本年度は,昨年度に引き続き,性染色体未同定である種を対象に,ゲノムワイド性連鎖解析を行った.具体的には,ティウメダカの室内飼育系統から得られた雌雄をpool-seqに,また野外から採集されたニグリマスメダカとネブローサスメダカの雌雄を全ゲノムシーケンスにかけた.その結果,これらの種では,スラウェシ島固有種で多く見られる性染色体(日本のメダカの連鎖群24番)とは別の染色体が,性染色体に相当していることが判明した.これら3種は中央スラウェシの古代湖群で交雑を繰り返してきたことが知られていることから(Sutra et al. 2019),交雑と性染色体置換との関係が浮かび上がってきた.また,ポソ湖のメダカ(ポソ種群)を対象に,体色や体型などの二次性徴形質の原因遺伝子を特定すべく,種間交配系統を用いてQTLマッピングを行った.その結果,これらの形質の責任遺伝子座は特定できたものの,それらは性染色体以外の染色体に座乗していることが判明した.さらに,ポソ種群について全ゲノム配列を新規決定し,大規模な染色体再配置の有無を確認すべく解析を進めている.
2: おおむね順調に進展している
コロナ渦で採集調査が延期になったが,過去に採集したサンプルを使って解析を進めることができた.また,ポソ種群については室内交配実験も予定通り終了し,いくつかの種について二次性徴形質の責任遺伝座を特定することもできた.
ポソ種群についてはほぼ予定通りのデータが得られ,論文を執筆する段階に来ている.来年度は,トウティ種群を対象に,GWASなどの解析を進める予定である.
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
Biology Letters
巻: 20 ページ: 20230385
10.1098/rsbl.2023.0385https://doi.org/10.6084/m9.figshare.c.7109019
Journal of Ethology
巻: 41 ページ: 207-214
10.1007/s10164-023-00787-0
Molecular Phylogenetics and Evolution
巻: 184 ページ: 107804-107804
10.1016/j.ympev.2023.107804
The American Naturalist
巻: 202 ページ: 231-240
10.1086/724840
Journal of Evolutionary Biology
巻: 36 ページ: 1484-1493
10.1111/jeb.14223