研究課題/領域番号 |
21H04785
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
狩野 方伸 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (40185963)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | シナプス刈り込み / 発達期 / 小脳 / 自閉スペクトラム症 / 統合失調症 |
研究実績の概要 |
小脳の障害が自閉スペクトラム症や統合失調症の発症に関わるという多くの報告があるが、発達期小脳のシナプス刈り込みの異常とこれらの精神神経疾患との関連は不明である。本研究では、これらの精神疾患の関連遺伝子をプルキンエ細胞特異的に欠損させたマウスを対象に、発達期小脳の登上線維シナプス刈り込み、前頭前野のシナプス伝達、精神疾患関連行動を精査し、さらに、プルキンエ細胞の活動を変調してシナプス刈り込みを正常化した場合の効果を解析する。これらにより、発達期小脳の登上線維シナプス刈り込みの異常な亢進や障害が、如何にして前頭前野のシナプス機能に永続的な影響を及ぼし、精神疾患類似の行動異常を起こすのかを追及している。 令和4年度は、自閉スペクトラム症関連遺伝子の1つである細胞接着分子の小脳プルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスにおいて、この分子がプルキンエ細胞に発現している小脳領域の形態解析を終了した。登上線維シナプス前終末、平行線維シナプス前終末、抑制性シナプス前終末を、それぞれの特異的マーカーの抗体を用いて、詳細な形態学的解析を行ったが、明白な異常は認められなかった。また、前頭前野の2/3層の錐体細胞の興奮性シナプス伝達と抑制性シナプス伝達について調べたところ、生後3-4週ではいずれも有意な差は見られなかったが、生後2カ月以上の成体では微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)の頻度が上昇していた。さらに、前頭前野の2/3層の錐体細胞の樹状突起スパインの密度と形態を調べ、生後2カ月以上の成体のノックアウトマウスにおいてシナプス密度が上昇しているという予備的結果を得た。 一方、統合失調症のリスク遺伝子の1つであるヒストン修飾酵素のプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの行動学的解析を開始したが、社会性やプレパルス抑制など、典型的な統合失調症類似行動については、異常はみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年は8月まで、COVID-19の感染の広がりがあったが、秋以降には感染状況は好転し、研究への影響は軽微となった。自閉スペクトラム症関連遺伝子の1つである細胞接着分子のプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの小脳シナプスの詳細な形態学的解析を予定どおりに終了した。また、前頭前野のシナプス機能の解析において、生後2カ月以上の成体のノックアウトマウスでは微小興奮性シナプス後電流(mEPSC) が上昇しており、錐体細胞の樹状突起スパインの密度が上昇しているという予備的結果を得た。これらの変化が、このマウスでみられる行動異常と関連していることが予想される。また、統合失調症のリスク遺伝子の1つであるヒストン修飾酵素のプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの行動解析を予定通り行った。残念ながら、これまでのところ、有意な行動異常は見つかっていないが、令和5年度は残された項目の行動解析を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
これまで2年間の研究成果を踏まえて、当初の計画にしたがって以下の研究を行う。 (1) 自閉スペクトラム症関連遺伝子のプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの解析: 引き続き、前頭前野の2/3層の錐体細胞の樹状突起スパインの密度と形態を精査するとともに、電気生理学的解析によって錐体細胞の興奮性に変化がないかを調べる。また、前頭前野以外の大脳皮質に変化がないかを調べる目的で、運動野の錐体細胞において興奮性および抑制性シナプス応答を調べる。また、前頭前野の錐体細胞にカルシウムセンサーを発現させ、頭部に固定した微小顕微鏡を用いて、覚醒行動下のマウスの多数の錐体細胞からカルシウム応答を記録する。これにより、前頭前野の活動に異常があるかを明らかにする。 (2) 統合失調症のリスク遺伝子のプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの解析:引き続き、網羅的行動解析を行い、統合失調症類似行動以外に何か行動異常があるかを明らかにする。
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