小脳の障害が自閉スペクトラム症や統合失調症の発症に関わるという多くの報告があるが、発達期小脳のシナプス刈り込みの異常とこれらの精神神経疾患との関連は不明である。本研究では、これらの精神疾患の関連遺伝子をプルキンエ細胞特異的に欠損させたマウスを対象に、発達期小脳の登上線維シナプス刈り込み、前頭前野のシナプス伝達、精神疾患関連行動を精査し、さらに、プルキンエ細胞の活動を変調してシナプス刈り込みを正常化した場合の効果を解析する。これらにより、発達期小脳の登上線維シナプス刈り込みの異常な亢進や障害が、如何にして前頭前野のシナプス機能に永続的な影響を及ぼし、精神疾患類似の行動異常を起こすのかを追及している。 令和5年度は、自閉スペクトラム症関連遺伝子の1つである細胞接着分子の小脳プルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスにおいて、小脳と大脳サンプルを用いてRNA-seqを行ったところ、精神疾患関連遺伝子を含む4つの遺伝子が共通しておよそ半減していた。この事実から、このマウスで得られた前頭前野錐体細胞の異常や自閉スペクトラム症関連の行動異常は、小脳プルキンエ細胞の異常ではなく、前頭前野錐体細胞自体の遺伝子変異によって引き起こされた可能性が否定できなくなった。そこで、アデノ随伴ウイルスAAVを用いて、プルキンエ細胞特異的に標的とする接着分子の遺伝子を欠損するマウスの作製を開始した。本研究は令和5年度で終了するが、今後、このマウスを用いて、発達期小脳の登上線維シナプスの刈り込みを調べ、成体における自閉スペクトラム症関連の行動解析を行う予定である。 一方、統合失調症リスク遺伝子のSetd1aのプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの網羅的行動解析の結果、社会性に異常はなかったが、固執性が高く、behavioral flexibilityが低下していることが明らかとなった。
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