研究課題
前障(Claustrum)は哺乳類の大脳皮質の内側に位置する薄いシート状の構造であるが、その機能や詳細な神経接続についてはほとんど解明されていない未踏の脳領域である。晩年のFrancis Crickが『意識』に相関した脳活動の考察において、前障が意識を司る脳部位であるという大胆な仮説を提唱した。しかしながら前障の複雑かつ不規則な構造、さらにはマーカー分子・有用遺伝子ツールの欠如などが障壁となり、この興味深い仮説の実験的検証には未だ至っていない。私たちは、前障ニューロン特異的にDNA組換え酵素Creを発現するトランスジェニックマウス系統(Cla-Cre#1マウス)を用いて、前障が大脳皮質の徐波活動を制御することを見出した(Nat. Neurosci. 2020)。本研究では新たに樹立したマウス系統(Cla-Cre#2、Cla-tTA)を加えて、光/化学遺伝学・生理学・行動学・解剖学など多様な実験手法を統合的に組み合わせ、Crickの仮説の検証とともに未知の脳領域である前障の機能解明に挑戦する。2023年度においては、Cla-Cre#1とCla-tTAのダブルトランスジェニックマウスを作成し、ClaとtTAが異なる前障ニューロンサブセットに発現することを見いだした。また、AAVretroを用いて逆行性かつCre依存的に2種類の蛍光蛋白質を異なるサブセットのCla-Creニューロンに発現するマウスにおけるscRNA-seq解析を行い、前障ニューロンサブセットごとの遺伝子発現プロファイルを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
2023年度までの研究により、前障を中心とした入力・出力神経回路の基本原理を明らかにするとともに、解剖学的かつ分子発現プロファイルにおいて異なる前障ニューロンサブセットを同定することができた。これらのことから本研究はおおむね順調に進展していると言える。
今後は、前障ニューロンのカルシウムイメージングや行動学的解析を組み合わせることによって、異なるタイプの前障ニューロンの機能的差異の解明へと向かう。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
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