研究課題/領域番号 |
21H04793
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹本 佳司 京都大学, 薬学研究科, 教授 (20227060)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 合成化学 / 触媒化学 / ホウ素触媒 / カルボン酸 / アミド化 / 縮合反応 / 一電子還元 / 光反応 |
研究実績の概要 |
今年度は以下に示す2つの課題について取り組んだ。 ①カルボン酸と1対1で配位し、さらに2つのルイス酸性ホウ素原子により同時に活性化することでルイス酸性の増強と周辺の嵩高さの解消が期待できる新奇ボロン酸触媒としてvic-ジボロン酸誘導体の合成を検討した。過去の例を参考にして、ベンゼン環の1,2-位にボロン酸を導入するハロゲン-金属交換反応や[4+2]環化反応などを検討したが、いずれも目的物を得ることはできなかった。最終的にジインとジボリルアルキンに対してWilkinson錯体を用いる[2+2+2]環化付加反応により簡便に種々の誘導体を合成できる方法をついに見出だした。さらに、確立した手法を用いていくつかの誘導体を収率よく合成した。今後、新奇触媒を活用した反応について検討を進める。 ②α,β-不飽和カルボン酸の光触媒環化反応を検討した。還元剤γ-terpineneを添加しなかった場合には[2+2]環化付加反応が進行し、還元剤を添加すると単環化合物が生成することを見出した。触媒の検討により、光触媒とボロン酸を用いる二触媒条件では全く反応が進行しないか、低収率で目的物を与えるのみであったが、分子内に光触媒ユニットとしてベンゾフェノチアジンを組み込んだハイブリッド型ボロン酸を用いると目的の環化付加体が高収率で得られた。反応時間1時間でほぼ原料は消失していたが、反応時間を10時間に延長すると生成物の異性体比がアンチ体へと偏っていくことが分かった。種々の機構解析実験の結果から、生成物がハイブリッド型ボロン酸によって一電子還元をうけることで、シクロブタン環がラジカル的に開裂し、再度閉環する際に異性化していることが示唆された。残念ながら、中員環化合物の合成と分子間反応への適用はできなかったが、第四級炭素構築の構築には成功した。新たに得られた結果を含め、現在論文投稿の準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)求電子剤としての利用:二つのボロン酸部位がオルト置換された1,2-ジボリルアレーンは、対応するメタ・パラ置換のジボロン酸と比べて、合成例は限られている。ハロゲン化アリールから発生させた金属アート錯体とホウ素求電子剤による反応、宮浦ホウ素化を用いる方法、さらにo-シリルアリールトリフラートから系中で発生させたアラインに対して遷移金属触媒とビスピナコラートジボロンを作用させる手法などが報告されているが、適用できる基質に制限があった。今回、すでにあるベンゼン環上にホウ素を導入するのではなく、ベンゼン環をつくりながらホウ素を導入すれば効率的に多置換1,2-ジボリルアレーンが合成できる分子内[2+2+2]環化反応を見出したので、今後は大幅に研究が進展すると期待している。短期的には、2つのボロン酸を分子内の官能基で保護できる誘導体を合成することで、ホウ素原子の空軌道をsp2からsp3に固定化できる縮環型 vic-アリールジボロン酸をいくつか合成し、触媒活性について検証してゆく予定である。 (2)求核剤としての利用:光触媒とアリールボロン酸の使用により、芳香族カルボン酸のみならずα,β-不飽和カルボン酸を一電子還元できることを見出した。また、光レドックス触媒とアリールボロンを同一分子内に有するハイブリッド触媒を独自に開発することで、α,β-不飽和カルボン酸を用いた初の分子内[2+2]環化付加反応に成功した。さらに、[2+2]環化体のシス体からトランス体への異性化機構を明らかにするとともに、還元剤であるγ-pinene添加の有無により単環還元体と[2+2]環化体の作り分けにも成功した。幾つかの新たな知見を得たので、現在論文投稿の準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は“カルボン酸を特異的に認識し、活性化させる触媒を独自の設計概念により開発すること”である。今後は以下に示す2つの課題について取り組む。 (1)求電子剤としての利用:芳香族vic-ジボロン酸誘導体の一般合成法を確立したので、今後は様々なvic-ジボロン酸誘導体を合成し、それらの構造と触媒活性との相関関係を明らかにし、カルボン酸を活性化する新たな触媒作用メカニズムの発見とペプチド合成への応用を図る。合成する新規触媒構造は(RO)2BC=CB(OR)(OH)型であり、カルボン酸が2分子配位する従来の触媒とは異なりカルボン酸と1対1で配位し、さらに2つ目のルイス酸性ホウ素原子により同時に活性化することでルイス酸性の増強と周辺の嵩高さの解消が期待できる。主にカルボン酸と共有結合しないルイス酸性ホウ素原子のヘテロ原子配位子を様々変更することで異なるルイス酸性あるいは立体環境を提供する触媒を合成しその触媒活性を検討する。特に、ホウ素の空軌道をsp2からsp3に固定化し、かつ芳香環との共鳴を阻害することでルイス酸性が格段に上昇することが期待できるビシクロ環状構造配位子の合成を達成できていないので完成させる。本項目では2つのボロン酸に異なる触媒機能を付与し、さらにホウ素配位子にブレンステッド塩基作用を組み込むことで触媒活性の飛躍的な触媒活性の向上を実現する。 (2)求核剤としての利用:新規フェナジン・ボロン酸触媒を独自で開発し、光励起一電子還元に不活性な不飽和カルボン酸に適用することで分子内[2+2]環化反応や還元的環化反応に適用できることを見出した。今後は、(i)新規ジボロン触媒を用いた脂肪族カルボン酸あるいはアミノ酸とアミンとの触媒的縮合反応、そして(ii)不飽和カルボン酸から発生させたラジカルとアルケンとの分子間炭素―炭素結合形成反応への可能性についても取り組む予定である。
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