研究課題
Wntシグナル依存性に唾液腺で発現するAQP3の機能を明らかにするために、AQP3ノックアウトマウスを作製したが、唾液腺形成に大きな異常は認められなかった。そこで、AQP3陽性細胞の機能を明らかにするため、AQP3-CreERT2(AQP3の開始コドン直下にCre-ERT2を挿入した改変マウス);Rosa-STOP-YFPマウスを作製して、生理的または組織修復時の唾液腺上皮の系統追跡解析を行った。生理条件下でのマウスにタモキシフェンを投与し、5日後の唾液腺組織ではYFP陽性細胞は認められなかった。一方、唾液腺導管結紮後にタモキシフェンを投与し、投与5日後の唾液腺組織では、残存する導管上皮においてYFP陽性細胞が認められた。したがって、組織の傷害依存的にAQP3陽性細胞が出現することが示唆された。AQP3陽性細胞を除去する目的で、AQP3-CreERT2;Rosa-STOP-DTR(ジフテリア毒素受容体)マウスを作製したが、CreERT2の発現量が低く、AQP3陽性細胞を十分に除去できなかった。そこで、新たにAQP3-2A-CreERT2(AQP3の終止コドン直下にT2Aを介してCreERT2を挿入した改変マウス)を作製したところ、CreERT2が十分に発現した。独自に作製したAQP3モノクローナル抗体を用いて唾液腺および食道上皮オルガノイドからAQP3陽性または陰性細胞を単離し、唾液腺上皮または食道上皮いずれにおいても、AQP3陽性細胞と陰性細胞はともにオルガノイド形成能を有することが判明した。ただし、AQP3陽性細胞から形成されるオルガノイドは、AQP3陰性細胞から形成されるオルガノイドよりサイズが大きかった。また、AQP3陽性細胞は、CXCR2および扁平上皮マーカーの発現が高く、腺上皮マーカーの発現が低い細胞集団で、細胞増殖能が高いことが示された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画「①AQP3陽性細胞による組織構築」について、AQP3-CreERT2;Rosa-LSL-YFPマウスを樹立し、計画通り唾液腺の系統追跡解析モデルを確立できた。確立したモデルマウスを使って、唾液腺組織障害後の修復過程、また食道上皮など他組織の維持におけるAQP3陽性細胞の系統追跡を開始している。研究計画「②AQP3陽性細胞の性状」について、独自に作製したAQP3ラットモノクローナルを用いたFACSによるAQP3陽性細胞の単離に成功した。AQP3陽性細胞の特徴から、AQP3陽性細胞がより高い増殖能を有すること、またAQP3陽性細胞が扁平上皮への分化能が高く、腺上皮への分化能が低いことを示唆する結果を得た。AQP3陽性細胞を単離することで、研究計画「③腺上皮の扁平上皮転換機構」についての解析を開始している。研究計画「④AQP3陽性細胞の生理的意義」については、AQP3-CreERT2マウスが細胞除去解析を行う上でCreERT2の発現が不十分であったことから、予算を一部繰り越し、AQP3-2A-CreERT2を新たに作製することとした。以上の進捗状況から、現状で研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
研究計画①については、AQP3-CreERT2;Rosa-LSL-YFPマウスを用いて、唾液腺の傷害修復過程へのAQP3陽性細胞の寄与を解析する。また、唾液腺以外で、恒常的にAQP3陽性細胞を有する重層扁平上皮組織として食道上皮および舌粘膜上皮に着目し、AQP3陽性細胞の系統追跡を行う。また、AQP3陽性細胞の組織構築における意義を明らかにするために、AQP3-2A-CreERT2マウスとRosa26-STOP-DTR(ジフテリア毒素受容体)マウスを交配し、シフテリア毒素依存的にAQP3陽性細胞を除去可能なマウスを作製し、組織構造や組織修復に与える影響を検討する。研究計画②については、AQP3陽性細胞のトランスクリプトーム解析を行い、AQP3陽性細胞の性質を明らかにする。研究計画③については、AQP3陽性細胞のトランスクリプトーム解析に加え、ATACシークエンスを行うことでオープンクロマチン領域を同定し、AQP3の発現と扁平上皮転換に関わる転写因子を同定する。
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