研究課題/領域番号 |
21H04799
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
本橋 ほづみ 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (00282351)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 肺がん / NRF2 / 免疫細胞 |
研究実績の概要 |
転写因子NRF2が異常に活性化しているがん細胞は、その生物学的特性の多くをNRF2に依存していることから、応募者は「NRF2依存性がん」という疾患概念を提唱している。こうしたNRF2依存性がんは、肺がんや頭頸部がんをはじめとする固形腫瘍で高頻度に見いだされる。その特徴は、抗がん剤や放射線治療に対する強い抵抗性、旺盛な腫瘍形成能、そして頻発する転移・再発であり、がん細胞におけるNRF2の活性化は強力な予後不良因子である。近年では、免疫療法に対する応答も不良であることが報告されており、新しい視点からの治療法開発が求められている。本研究では、NRF2依存性がんによる腫瘍微小環境のインストラクション機構の解明と、NRF2依存性がんと腫瘍微小環境の相互作用を狙った新たな治療標的の取得に挑むことを目的としている。 未治療肺腺癌の手術検体90症例に対して免疫組織学的解析を実施し、NRF2陽性症例と陰性症例の2群への層別化を行った。昨年度までに、各種免疫担当細胞のマーカータンパク質に対する抗体を用いて、免疫組織学的解析、single cell-RNA-seq解析を実施して、腫瘍内に浸潤している細胞の種類やそれぞれの細胞の遺伝子発現の違いを検討した。また、公共データベースに格納されている肺腺がんのbulk RNA-seq解析のデータやsingle cell-RNA-seq解析のデータの再解析から、NRF2陽性症例で一部の免疫担当細胞の浸潤や腫瘍内分化が抑制されていることがわかった。また、昨年度までに、抗腫瘍免疫を評価するためのマウスモデルを確立し、NRF2活性化がんとNRF2非活性化がんのモデル細胞を尾静脈から注入すると、肺に転移巣を形成することがわかった。さらに、昨年度までに、マウスを用いた呼気分析のシステムの至適化が完了し、マウス担がんモデルや、マウスPDXモデルを用いて、マウスの呼気分析を行う体制が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
免疫担当細胞の機能を抑制する代謝物が、がん細胞株の代謝物解析でたしかに、NRF2活性化がんで増加していることが確認できた。そして当該代謝物が、免疫担当細胞の遊走や活性化を抑制し、がん細胞の抗腫瘍免疫の回避をもたらしている可能性が高くなった。NRF2活性化がんにおける免疫回避の新たなメカニズムの手がかりが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
NRF2活性化がんが分泌する代謝物による抗腫瘍免疫の制御機構を検証し、NRF2活性化がんにおける代謝の改変により免疫チェックポイント阻害剤に対する感受性を改善できるかを調べる。また、イメージング質量顕微鏡を用いて腫瘍検体の内部における代謝物の局在と免疫担当細胞の局在の関係を解析する。
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