研究課題/領域番号 |
21H04800
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三宅 健介 東京大学, 医科学研究所, 教授 (60229812)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 自然免疫 / Toll様受容体 / リソソーム |
研究実績の概要 |
Toll様受容体 (Toll-like receptor, TLR) は病原体成分を認識し炎症応答を誘導するセンサーである。一部の自己成分にも応答し、自己免疫疾患など非感染性炎症疾患の病態にも関与する。これまでのTLR研究は炎症性サイトカインの産生など、炎症応答に注目してきた。本研究では、炎症性サイトカイン産生とは異なるTLR応答に焦点を当てる。その応答を代替応答と定義し、その応答の分子基盤を解析する。TLR代替応答が関与する疾患としてリソソーム蓄積病に注目し、リソソームに蓄積した代謝産物にTLRが応答し、病態を誘導する可能性を検討する。これらの解析を通して、TLR代替応答という新たな概念の確立を目指す。具体的には、ヌクレオシド、RNA、DNA、糖質などがリソソームに蓄積するマウスを作成し、そのマウスにおいて、活性化されるTLR応答を解析する。本年はヌクレオシドがリソソームに蓄積するSLC29A3異常症のモデルマウスを確立し、TLR欠損マウスと交配させることで、活性化されているTLRの同定に成功した。RNAが蓄積するマウスとして、RNaseT2遺伝子欠損マウスも作成し、現在TLR遺伝子欠損マウスとの交配を進めている。さらにDNAが蓄積するマウスとして、DNase I、DNase I like 1、DNase I like 2、DNase I like 3それぞれの遺伝子を欠損したマウスを作成したが、明らかな表現型が検出されなかった。そこで、他のDNAが蓄積する可能性のあるマウスの作成を進める。糖脂質の蓄積については、NPC1の欠損マウスの確立に成功し、現在TLR遺伝子欠損マウスとの交配を進めている。Gba遺伝子欠損マウスについては、確立できなかった。TLRに作用する自己由来RNAリガンドの同定については、現在、実験系の確立を共同研究で進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでにSLC29A3遺伝子欠損マウス、RNaseT2遺伝子欠損マウス、一連のDNase欠損マウスについても作成が終了している。また、NPC1遺伝子欠損マウスも作成済みである。唯一、Gaucher病のモデルマウスであるGba遺伝子欠損マウスは作成できなかった。これだけが当初の予定通りには進んでいない。したがって、研究計画で予定していたマウスの確立はおおむね順調に進んでいる。これらのマウスで認められた表現型にTLRが関与しているのかどうか、TLR遺伝子欠損マウスと交配することで、検討してゆく。既にSLC29A3遺伝子欠損マウスについては、病態を誘導するTLRの同定に成功している。このTLRについては、病態を誘導するTLR代替応答について、分子レベルでの解析を進めてゆく。RNaseT2遺伝子欠損マウスについても、現在TLR遺伝子欠損マウスとの交配を進めており、近いうちにTLRが同定できる予定である。特定できたTLRについて、代替応答の解析をSLC29A3遺伝子欠損マウスと同様に進めてゆく。また、NPC1遺伝子欠損マウスについても、肝脾腫、神経症状などの表現型が確認されており、これらの病態におけるTLRの関与について、TLR遺伝子欠損マウスとの交配を進めている。これら、個体レベルでの解析と並行して予定している細胞株を用いた解析についても、現在準備を進めている。TLR代替応答として増殖応答を解析するために、IL-3依存性細胞株で、SLC29A3やRNaseT2などを欠損した細胞株の作成を進めている。これらの細胞株は増殖を誘導するシグナル伝達経路の解析、さらにイメージング解析も予定する。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね順調に進んでいるので、計画通りに進めてゆく。ただし、DNAが蓄積したときのTLR代替応答については、当初予定したDNase I、DNase I like 1、DNase I like 2、DNase I like 3遺伝子欠損マウスを作成しても、脾腫などの表現型が認められなかったため、現在、2重欠損マウスを作成し、表現型が認められるかどうか、検討している。さらに新たな遺伝子についての解析も予定する。これについては、Phospholipase D3 (PLD3)、Phospholipase D4 (PLD4)の遺伝子欠損マウス作成を検討している。これらのマウス、特に両方を欠損させたマウスは、脾腫などの表現型を示すことが報告されている。その際にDNAセンサーであるTLR9が表現型に関与することも報告されており、この点を確認するため、これらの遺伝子欠損マウスの作成を開始する。TLR9の関与が確認されれば、DNase遺伝子欠損マウスと同様に解析を進める。Gba遺伝子欠損マウスについては、残念ながら確立できなかった。既に確立されたGba遺伝子欠損マウスもあるので、入手することも検討する。差し当たって、糖脂質に対するTLR代替応答の解析については、NPC1遺伝子欠損マウスに集中する。細胞株を用いた解析についても予定通り進んでおり、現在、SLC29A3遺伝子欠損細胞株の確立、さらに欠損した細胞株に、病態に関わるTLRの遺伝子導入などを進めている。また、リガンドの解析として、TLRに結合したRNAの同定を進める手法の確立を共同研究で進めていく。DNAについても、同様な同定が可能かどうかについても検討を進めてゆく。
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