研究実績の概要 |
粘液を構成するMuc2ムチンやLY6/PLAUR Domain Containing 8 (Lypd8)などの腸管恒常性維持に関わることが知られている腸管上皮に発現する分子は糖鎖付加の極めて多いタンパク質である。このことから、糖鎖修飾が腸管恒常性維持において重要な役割を担っていることが考えられる。そこで、消化管上皮に選択的に発現する糖転移酵素に着目し、これらの酵素および標的糖鎖の腸管恒常性維持における機能を解析し、糖鎖修飾という新たな視点から、腸管恒常性維持機構を明らかにする。そのため、2種の腸管上皮に特異的に発現する糖転移酵素の遺伝子欠損マウスを作製し、デキストラン硫酸塩により誘導される腸管炎症に対する感受性を解析した。その結果、それぞれの糖転移酵素の遺伝子欠損マウスが、腸管炎症に対して感受性が高いことから、当該糖転移酵素が腸管恒常性の維持に重要な役割を果たすことが示された。今年度は、当該糖転移酵素による腸管恒常性維持のメカニズム解析に着手した。まず、各遺伝子欠損マウスの腸内細菌叢を16S rRNAのシークエンス解析により野生型マウスと比較解析した。その結果、それぞれの遺伝子欠損マウスで、腸内細菌叢が野生型マウスに比べて優位に変化していることが明らかになった。また、粘膜固有層に存在する免疫細胞(B細胞、T細胞およびマクロファージなど)の活性化状態や数を解析した。その結果、それぞれの遺伝子欠損マウスでTh1,Th17細胞がやや増加していることが明らかになった。以上のことから、当該糖転移酵素により産生される糖鎖が、腸内細菌と相互作用し、その数や種類を制御し、腸管免疫系の制御などを介して腸管恒常性を維持していることが示唆された。今後、当該糖転移酵素および糖鎖構造による腸管恒常性維持機構のメカニズムを解析し、糖鎖修飾の腸管恒常性維持における重要性を明らかにしていく。
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