研究課題/領域番号 |
21H04810
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 真樹 北海道大学, 医学研究院, 教授 (90301887)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 行動戦略 / エラー信号 / 大脳小脳連関 / 小脳歯状核 / 補足眼野 / LFP / 眼球運動 / 非ヒト霊長類 |
研究実績の概要 |
「慎重を要する状況における行動の制御に外側小脳と前頭葉皮質の機能連関が関与する」との作業仮説を検証する。突然現れる視覚刺激と反対方向に眼球運動を行うアンチサッカード課題をサルに訓練し、その次の試行で視覚刺激に向かうプロサッカードの潜時が延長することを行動抑制の指標として一連の実験を行う。実験は動物実験委員会の承認を受けて行う。
計画通り、令和4年度から2頭のサルにアンチサッカード課題を訓練して小脳歯状核から記録を行うとともに、補足眼野の硬膜上に置いたボール電極や脳内に刺入した多点電極から局所場電位(LFP)記録を行っている。小脳核後部からアンチサッカードのエラー直後に成功試行と異なる活動を示すニューロンを記録するとともに、補足眼野からエラー関連電位を記録している。令和4年度には、予想していなかった大きな進展があった。まず、エラーを増やすためにプロサッカードに反応時間の制限を設けたところ、エラーに関与する同じ小脳核ニューロンが潜時に応じて段階的に活動を変化させることを発見した。反応時間が短いことを要求する課題と長いことを要求する課題でこの関係は逆転し、これらのニューロンが反応時間にもとづいたエラー確率を符号化している可能性が考えられる。また、小脳核の電気刺激によってSEFで誘発される応答を多点電極による局所場電位で調べたところ、小脳歯状核背側部と腹側部でSEFへの投射先の層が異なるらしいことを見出している。さらに、課題中に硬膜表面で記録されるエラー関連電位の各成分は、大脳皮質各層である程度分離して記録されることが明らかになりつつある。今後、データを蓄積してこれらの点を確認する必要がある。また現在、別個体で小脳プルキンエ細胞に興奮性オプシンを発現させ、小脳核での光刺激による応答性を調べる予備実験を進めており、今後、訓練個体での光刺激実験にむけて準備を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画通り、すでに2頭のサルを用いて小脳歯状核から単一ニューロン記録を行うとともに、補足眼野に多点電極を刺入してLFP記録を行っている。課題に関連した様々な細胞のうち、エラー直後に正解時と異なる応答を示すものについて詳しい解析を行った。この成果を生理学会第100回大会でポスター発表した研究協力者の学部生が優秀賞を受賞した。
これまでのアンチサッカード課題では反応時間を遅らせて正解率を向上させる行動戦略をとることが多く、エラー確率が低い上、失敗試行後の反応時間の変化が少ないという問題があった。このため、固視点ではなく標的の色でルールを提示するSimon課題を導入し、プロサッカードに制限時間を加えたところ、アンチサッカードのエラーに反応する同じニューロンが、プロサッカードの潜時によって活動を段階的に変化させることを見出した。驚いたことに、反応時間を一定時間より長くする必要のある課題を新たに加えたところ、反応時間と神経活動の関係が逆転した。このことは、小脳が運動潜時を検知し、将来のエラー確率(または報酬確率)を符号化している可能性を示し、今後、これを検証する必要がある。 また、小脳核の電気刺激によるSEFでの短潜時応答を調べているが、小脳核の背側部と腹側部で信号を送る皮質層が異なることを発見している。さらに、SEFに多点電極を刺入してLFPを記録すると、硬膜表面で記録されるエラー関連電位は様々な成分を反映していることが示唆されており、とくに運動直後の成分は先の小脳核背側部から入力を受ける層で強い傾向がある。これらはいずれも計画当初に予期していなかった発見であり、まだ予備的ではあるが大脳小脳連関の理解を大きく前進させる可能性がある。
これらに加えて、令和4年度は本研究と関連の深い小脳歯状核で行った研究成果を論文発表し、令和5年度前半にも小脳核の論文を公表できると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、さらにデータを蓄積しつつ、定量的な解析を進める。令和4度中に多点電極による小脳核ニューロンの記録を開始することはできたが、大脳と小脳の同時記録では一方が単電極の記録となっており、同時に多点で記録できるようにしてデータ収集の効率化を図る。また、データ解析についてもさらに深める必要があると考えており、課題の成否に加え、反応時間との神経相関を詳しく調べるとともに、LFPの各成分やスパイクとの関連なども調査する。また、研究の最終段階で必要となる光刺激実験の準備をさらに進め、小脳皮質に興奮性オプシンを発現させるための諸条件を共同研究者とともに調査する。
令和5年度は対面で行われる学会や研究会も多く予定されており、これらに参加して情報収集をおこなうとともに、適宜進捗報告を行ってフィードバックを得ながら研究を進める。
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