研究課題
前年度に確立した大動物モデルを用いて、パーフルオロカーボン(PFC)による酸素化効果の発現に重要な血管を探索した。すなわち、麻酔・筋弛緩剤を投与した状態で人工呼吸管理によって呼吸機能を調節し、自発呼吸(経肺的な換気)の影響を最小限にコントロールした形で低酸素状態に誘導した呼吸不全モデルブタに対して、動脈に加えて複数の静脈血行路の酸素や二酸化炭素分圧を評価した。その結果、PFCを腸管内に投与している間は、低酸素状態の改善効果だけでなく二酸化炭素の減少効果(換気効果)をもたらすことが判明した。さらに、その効果は、PFCの排泄によって元の状態に戻ることから、PFCの投与によって改善しているという証左を得た。次に、複数の静脈血行路に留置したカテーテルを用いて、局所での酸素化状態を評価した結果、門脈を優位として腸管から流出する複数の静脈血を酸素化することが示された。また、前年度に取得したマウスでのscRNA-seqデータのバイオインフォマティクス解析を進めた。直腸から肛門管に至る領域を構成する細胞種のアノテーションを実施した後に、酸素化したPFCの投与依存的に遺伝子発現を示すクラスターとその遺伝子機能を探索した。その結果、酸素化したPFCを投与した条件でのみ出現する腸上皮細胞群の存在を同定し、それらの上皮細胞に特徴的な遺伝子セットを明らかにした。また、血管内皮細胞の多様性について、肺との比較の観点から検討し、ガス換気に特化した肺胞血管内皮細胞で特異的に発現する遺伝子のいくつかが直腸に配向する血管内皮細胞にも発現していることを見出した。腸呼吸に最適化された腸オルガノイドのエンジニアリングに関しては、in vivoでの移植条件を検討し、腸管周囲にヒト血管内皮細胞を付加することが可能な基盤技術を構築した。現在、in vitroとin vivoの両方において、腸管機能の改変を指向した化合物探索実験を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
大動物を用いた実験から哺乳類腸呼吸の局所酸素化動態が明らかになり、その作用機序や定量的理解へ大きく前進した。得られた成果は国際誌iScienceへ掲載された。また、マウスを用いたscRNA-seq解析から、従来全く記述されてこなかった腸管でのガス換気に関連した分子機序の存在が明らかになりつつあり、当初計画を超えて順調に進展していると考えている。
マウスscRNA-seq解析をさらに発展させ、肺との相同性・相違性の観点から、腸管上皮細胞や血管内皮細胞における分子レベルでの比較解析を実施する。さらに、導出された特徴的な分子については、形態学的な解析を行い、ガス換気組織としての腸の理解を深める。腸オルガノイドのエンジニアリングについては、in vitroとin vivoの両方を並行して候補薬剤処理の有効性検証を進める。in vitroでの酸素移行評価系の構築が困難であったことから、上皮細胞の形態変化や局所血流量などのサロゲートを設定し、腸呼吸の酸素化効率を操作可能な技術基盤を開発する。また、副呼吸システムの人為創出を目指して、腸オルガノイドの移植操作を最適化するとともに、体外からの投与が可能となるように、移植後の二期的手術のプロトコルについても検討を進める。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 8件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 6件、 招待講演 36件)
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