研究課題
我々は、本研究の準備研究の成果として、心臓に豊富に発現する新規lncRNA Carenの発現量が、心不全発症につながる加齢や高血圧などの圧負荷によるストレスによって減少することを明らかにした。さらに、Carenが心保護作用を有し、心機能恒常性維持に重要な役割を果たしていることを明らかにした。Carenによる心保護作用メカニズムとして、ミトコンドリア生合成を促進するTFAMの発現を増加させることでミトコンドリア生合成を促進し、活性酸素種の産生を増やすことなく心筋細胞におけるエネルギー産生を増強させること、心不全の発症・進展に寄与するDNA損傷応答経路活性化の鍵となるATMの活性化を促進するHint1の翻訳を阻害することで、心筋細胞におけるDNA損傷応答活性化を抑制することを解明した。以上より、加齢や圧負荷ストレスによって心筋細胞におけるCarenの発現量が低下することで、Carenによる心保護作用が減弱し、心筋細胞におけるミトコンドリアエネルギー代謝機能低下やDNA損傷応答活性化が促進され、心不全の発症・進展につながることが明らかとなった。また、マウスにおいて、大動脈縮窄(TAC)による圧負荷や運動負荷を与えた場合、いずれの場合も心筋細胞は肥大化するが、圧負荷による心筋細胞肥大は心線維化を伴い心機能低下(心不全)に繋がるのに対し、運動負荷による心筋細胞肥大では心線維化は認めず心機能低下には至らないことを確認した。また、運動負荷肥大心筋細胞では、ミトコンドリアの形態に影響は認められなかったが、圧負荷肥大心筋細胞では、クリステ構造の異常が認められることを見出した。さらに、運動負荷肥大心筋細胞では、ミトコンドリア生合成や呼吸機能の亢進を認めるが、逆に圧負荷肥大心筋細胞では低下することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の準備研究において得られていた心臓組織にけるCarenの生理的機能解明研究成果を論文発表するとともに、心筋細胞のミトコンドリアの量・質の変容が心臓組織内の細胞間相互作用、心線維化を規定しており、圧負荷ストレスによる心不全発症に繋がることを明らかにしており、本研究は順調に進展していると考える。
昨年度に引き続き、新規lncRNA Carenの心筋特異的遺伝子改変マウスやTFAMの心筋特異的遺伝子改変マウスを用い、生理的ストレス及び病態での心臓組織の応答・修復に及ぼす影響を検討し、心臓組織の応答・修復とその変容におけるCarenやTFAMを介したマイトスタシス制御の意義を解明する。また、ANGPTL2シグナルによるミトコンドリア代謝制御機構についても引き続き検討する。Caren分子ネットワークによるマイトスタシス制御機構の解明に向け、Carenを高発現した培養細胞や心臓組織を用いてCarenと相互作用するRNAやタンパク質を網羅的に探索する。まずはCarenを高発現した培養細胞を用いてCarenと相互作用する分子の探索を開始する予定である。さらに、心保護的作用を有するマイトスタシス制御関連分子の発現をモニタリングするレポーター細胞を用い、低分子化合物、天然物抽出液、海洋微生物抽出液ライブラリーなどのスクリーニングを開始する。
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