研究課題
超高齢化社会を迎え、肥満を原因とする生活習慣病に加え、サルコペニアなどの加齢に伴う疾患が増えており、その対策は健康な寿命を延伸するために緊急な課題である。近年、中高年の生活習慣病のなりやすさ体質がすでに母親の栄養状態を介して胎児の期間に記憶されているというDevelopmental origins of health and disease(DOHaD)仮説が注目されているが分子機構の詳細は不明である。本研究では、「栄養環境を感知するヒストン脱メチル化酵素」JMJD1Aに着目し、世代を超えたエピゲノム制御機構を解明することを目的とする。本研究で得られる知見は、その分子基盤に基づく生活習慣病の予防・治療法を創出し、健康寿命の延伸による国民生活の質の向上に貢献する。ヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aの点変異によって酵素活性だけ阻害したマウス(Jmjd1a-H1122Yマウス)を作製し、表現型の解析をおこなった。Jmjd1a-H1122Yマウスは、肥満を呈し、ベージュ脂肪細胞特異的遺伝子発現の低下、脂肪組織における血管増生と神経支配の不全が認められた。組織特異的JMJD1A欠損マウスの解析では、POMC神経におけるJMJD1A欠損による摂餌量増加、体重増加、脂肪重量増加、エネルギー消費低下を明らかにした。さらに、前駆脂肪細胞特異的JMJD1A欠損マウスは、体重増加、脂肪重量増加、エネルギー消費低下、糖代謝異常を呈することを明らかにした。Jmjd1a flox/floxマウスとCdh5-Cre-ERTマウスを交配することで、誘導性にJMJD1Aを血管内皮細胞特異的に欠損させるマウスの系を確立した。さらに、脂肪細胞分化の系において、細胞外のグルコース依存的なヒストン脱メチル化を介して、糖代謝を制御する栄養感知エピゲノム酵素としてJMJD1Aを見出した。
2: おおむね順調に進展している
概要で記載した項目(1)-(3)についての進捗は以下の通りであり、おおむね順調に進んでいる。(1)環境を感知するエピゲノム酵素の活性阻害によって肥満・生活習慣病の表現型を生み出している細胞・組織の特定に向けて、POMC神経におけるJMJD1A欠損は、摂餌量増加、体重増加、脂肪重量増加、エネルギー消費低下を引き起こすことを明らかにした。また、前駆脂肪細胞におけるJMJD1A欠損は、体重増加、脂肪重量増加、エネルギー消費低下、糖代謝異常を引き起こすことを明らかにした。(2)表現型を生み出している時期(胎仔か生後か)の特定に向けて、誘導性にJMJD1Aを血管内皮細胞特異的に欠損させるマウスの系を確立した。(3)「環境を感知するエピゲノム酵素」による栄養と代謝入力による細胞の質の制御の解明にむけて、JMJD1A細胞外グルコースを感知する栄養感知エピゲノム酵素であることを明らかにした。
前年度から継続して、以下の方策で研究を推進する。(1)中枢特異的、脂肪組織特異的、および骨格筋特異的なJMJD1Aマウスの解析を続ける。環境を感知するエピゲノム酵素の活性阻害が、肥満・生活習慣病の表現型を生み出すメカニズムとして、cell autonomous(細胞自立的)に加え、cell-cell interaction(細胞間相互作用)の可能性を考慮して、エピゲノムの細胞間の連動性を明らかにする。(2)誘導性にJMJD1Aを血管内皮細胞特異的に欠損したマウスの解析を行い、JMJD1Aの血管内皮細胞での機能低下が、子宮内発育遅延や生後の肥満の原因か、胎仔と生後とでどちらの時期のJMJD1Aによって制御されうる血管機能がDOHaD仮説を説明しうるか解析する。(3)JMJD1Aの免疫沈降と質量分析を行い、低グルコース時に受けるJMJD1Aのリン酸化修飾とタンパク質複合体を解析する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (18件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)
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