研究実績の概要 |
我が国の心疾患, 脳血管疾患による死亡は全死因の中でがんに次いでそれぞれ2番目(15.3%), 3番目(8.2%)であり, このうちで主要な疾患である心筋梗塞などの虚血性心疾患による死亡者は6万9,857人, 脳梗塞は6万2,128人を数える。さらに, 生存者であっても, それらの後遺症である心不全, 神経障害による肉体的, 精神的社会的な質(QOL)の低下は著しい。また, これらの医療費の合計は年間1兆4,438億円に上るとされ(同「国民医療費の概況」), その経済的損失も計り知れない。医学, 社会, 経済のあらゆる面で, これらの虚血性疾患に対する革新的な治療法の開発が求められている。 本研究では、各種臓器(脳, 心臓, 腎臓, 肝臓)の虚血ストレスによって誘導される臓器障害と臓器修復の時空間的分子機構におけるエフェロサイトーシスの病理学的意義について明らかにすることを目的とした。2021年度は野生型マウス, CD300a遺伝子欠損マウスで 脳梗塞モデル(MCAO)を作成し、PS結合蛋白である変異型MFG-E8 (D89E)を投与し、エフェロサイトーシスを阻害することによって、病態に与える影響を解析した。これらの虚血モデルにおいて, 発症前, 虚血後1時間後, 3時間後, 6時間後の超急性期, および1日後, 3日後, 7日後の急性期の各種臓器の病理像を, マクロ, 細胞,分子レベルで解析した。その結果、CD300a欠損により骨髄球性細胞によるエフェロアイトーシスが亢進し、DAMPsの減少と、それに引き続く炎症が減弱することによって、神経障害が軽減することを明らかにした。これにより、脳梗塞の病態において、CD300aに対する分子標的療法の可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記の進捗状況から、研究計画の進展が順調と判断した。 (1)虚血臓器における組織障害の時空間的な病理像とその分子機構の解明 脳の虚血ストレスによって誘導される臓器障害と臓器修復の時空間的分子機構におけるエフェロサイトーシスの病理学的意義について明らかにした。脳梗塞モデルにおいて, 発症前, 虚血後1時間後, 3時間後, 6時間後の超急性期, および1日後, 3日後, 7日後の急性期の各種臓器の病理像を, マクロ, 細胞,分子レベルで明らかにした。 (2)エフェロサイトーシスの制御による虚血障害の制御法の基盤開発 1)マウスモデルでの解析 CD300aとPSとの結合を阻害する抗CD300a中和抗体を樹立し, これを投与した脳梗塞モデルマウスでは, ペナンブラ領域の神経脱落や神経症状が著明に改善を示すことを明らかにした。さらに種々の投与スケジュールにより効果の比較を行い、虚血後6時間でも有効であることを示し、実臨床における有用性の可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)虚血臓器における組織障害の時空間的な病理像とその分子機構の解明 脳に加えて、臓, 腎臓, 肝臓の虚血ストレスによって誘導される臓器障害と臓器修復の時空間的分子機構におけるエフェロサイトーシスの病理学的意義についても明らかにする。そのために, 野生型マウス, CD300a遺伝子欠損マウスで心筋梗塞モデル(左前下降枝結索), 腎動脈, 肝動脈結索虚血再灌流モデルをそれぞれ作製する。また, PS結合蛋白である変異型MFG-E8 (D89E)を投与し、エフェロサイトーシスを阻害することによって、病態に与える影響を解析する。これらの虚血モデルにおいて, 発症前, 虚血後1時間後, 3時間後, 6時間後の超急性期, および1日後, 3日後, 7日後の急性期の各種臓器の病理像を, マクロ, 細胞,分子レベルで解析する。分子イメージングとシングルセルゲノミクスとの組み合わせにより時間発展的に変動する組織・細胞・生体分子間相互作用ネットワークを解析し, 虚血ストレスによって誘導される臓器障害と臓器修復の時空間的分子機構を解明する。 (2)エフェロサイトーシスの制御による虚血障害の制御法の基盤開発 1)マウスモデルでの解析:心筋梗塞モデル, 肝臓, 腎臓の虚血再灌流モデルにおいても, CD300a中和抗体を投与によるエフェロサイトーシスの亢進による臓器障害への影響を解析する。 2)ヒト化マウスモデルを用いたヒト外挿性の検証:ヒト単球からマクロファージを誘導し,樹立した抗ヒトCD300A中和抗体のエフェロサイトーシスの促進効果を検証するとともに,その分子機構をマウスとの対比で明らかにする。さらにin vivoでの効果を検証するために、ヒト化マウスモデルを用いたヒト型虚血モデルでの検証を行う。
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