研究実績の概要 |
虚血によって生じる死細胞は, DAMPsを放出することによって局所ならびにその周囲の無菌性炎症を惹起する。この炎症がさらなる細胞死を誘導し,時間経過につれて広範な組織障害が成立する。一方, 死細胞の除去は, この悪循環を断ち切り, 組織修復の一つの制御機構となりうる。申請者らは, 骨髄球系細胞の活性化を負に制御する免疫受容体であるCD300aを同定し, これが死細胞の細胞膜上に露出するフォスファチジルセリンの受容体であることを明らかにし、さらに CD300aがエフェロサイトーシスを抑制することを見出した。本研究では,脳、心臓、腎臓、肝臓の虚血再還流後の組織障害の時空間的な病理とその分子機構を明らかにし、エフェロサイトーシスを介したこれらの疾患の制御法開発のための基盤的研究を行う。 令和4年度においては、臓器虚血後のエフェロサイトーシスは、炎症性単球か、組織在住マクロファージが関与しているかを明らかにすることを試みた。申請者らが確立したGFPマウスを全身照射後, TdTomato Lyz2-CreマウスあるいはCd300fl/fl TdTomato Lyz2-Creマウスの骨髄を移植したキメラマウスを作成し、脳、心臓、腎臓虚血を誘導し, 虚血局所のTdTomato+ 単球、好中球、およびマクロファージのエフェロサイトーシスへの関与をフローサイトメトリーまたは免疫組織染色で解析した。その結果、脳においては炎症性単球、腎臓、心臓においては組織在住性マクロファージによるエフェロサイトーシスの亢進が確認され、これによるDAMPsの減少、ならびに組織障害の軽減が認められた。これらの結果から、臓器特性の違いが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
2023 年度は本研究の最終年度であり、研究計画を完遂させる。そのために下記の計画を予定する。 1.シングルセルRNA-seq 解析: 虚血後の臓器から経時的にCD45+免疫細胞およびCD45-非免疫細胞をシングルセルに調整し, 細胞分類解析, 擬時間解析を用いて, 遺伝子発現の変化を解析する。各種細胞サブセットの虚血によって誘導される遺伝子発現変動を解析することによって, 死細胞, エフェロサイトーシス, 炎症反応の関連を明らかにする。さらに, 空間的トランスクリプトミクス解析を用いて, それぞれの遺伝子発現の位置情報を解析し, 虚血後の遺伝子発現の時空間的ダイナミクスを明らかにする。 2.エフェロサイトーシスの制御による虚血障害の制御法の基盤開発: 申請者らは,ヒトCD300AとPSとの結合を遮断するマウス抗ヒトCD300A中和抗体をすでに樹立した。ヒト単球からマクロファージを誘導し,樹立した抗ヒトCD300A中和抗体のエフェロサイトーシスの促進効果を検証するとともに,その分子機構をマウスとの対比で明らかにする。さらにin vivoでの効果を検証するために、ヒト化マウスモデルを用いたヒト型虚血モデルでの検証を行う。さらに,シングルセルRNAシークエンスを用いた包括的, 網羅的解析により,免疫細胞や神経細胞やグリア細胞の遺伝子発現プロファイルを解析し,エフェロシトーシス,DAMPs,炎症反応,細胞死などの関与する遺伝子発現に対する抗マウスCD300a中和抗体の作用機構を明らかにする。
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