研究課題
皮膚組織修復に限って炎症反応は必ずしも必要でなく、逆に瘢痕化を導く増悪反応であると考えられている。本年度は、炎症及び瘢痕が認められない PU.1 遺伝子欠損(KO)マウス及び空間的トランスクリプトーム解析(組織位置情報を具備した微小環境領域での包括的遺伝子発現解析法)を用いて機能解析を行った。まず、正常皮膚、受傷後 3 日、7 日、10 日、14 日目のマウス皮膚創部を用いて空間的トランスクリプトーム解析を実施し、各クラスターにおいて有意に発現上昇している遺伝子を抽出した。その後、PU.1 KO マウスを用いた次世代シーケンス解析データと照合し、各受傷後時間における炎症・瘢痕関連遺伝子を同定した( 3 日目:19 種類、7 日:19 種類、10 日:8 種類、14 日目:9 種類)。次に種々のデーターベースを用いて瘢痕化に影響を与える遺伝子候補を絞り、マウス初代線維芽細胞及びヒト由来初代線維芽細胞並びにケロイド由来線維芽細胞を用いて、候補遺伝子の発現動態を検証した。その結果、遺伝子 A を新規瘢痕関連遺伝子として見出した。生体における遺伝子 A 機能を詳細に解明するためには、遺伝子改変マウス作製が必須である。本年度は、全身性遺伝子 A KO マウス、遺伝子 A flox マウス、遺伝子 A tdTomato マウス、遺伝子 A CreERT2 マウス作製に着手し、無事に全系統マウスを獲ることができた。一方、成体マウス由来皮膚創部(受傷後 3 日、7 日、14 日目)及び胎仔由来皮膚創部(E13、E15)を用いてシングルセル解析を行い、各受傷後における細胞集団及び遺伝子発現情報を得た。
2: おおむね順調に進展している
当該分野では未だ成功例が無い、一連の空間的トランスクリプトーム解析法を無事に確立することができた。現在はシングルセル解析結果との統合を試みている。遺伝子改変マウスも約半年で作製に成功した。現在は、細胞特異的遺伝子 A 欠損マウスの作製及び 2 種類の遺伝子 A イメージングマウス作製に着手している。イメージング解析によって、生体におけるシングルセルレベルでの機能解析が可能と考えている。一方、遺伝子 A に次ぐ新たな新規炎症関連瘢痕遺伝子の同定を実施している。2022 年度中に同定し、更に機能解析を進める予定である。以上、2021 年度は空間的トランスクリプトーム解析、シングルセル解析などの先端技術を用いた機能解析系の構築に成功した。さらに 4 種類の遺伝子改変マウス作製も行うことができた。従って、概ね順調に進展していると判断した。
今後は下記を主体として本研究を推進させる。(1)空間的トランスクリプトーム解析結果とシングルセル解析結果を統合し、新たな解析手法を構築する。(2)遺伝子 A 遺伝子改変マウスを用いて機能解析を行い、成体における機能を明らかにする。(3)成体及び胎仔由来シングルセル解析結果を比較検討し、皮膚完全再生シグナルの同定を試みる。(4)シングルセル ATAC-Seq 解析法を確立し、シングルセルにおける転写及び遺伝子発現の相関性を明白にする。
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