研究課題/領域番号 |
21H04860
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野崎 大地 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (70360683)
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研究分担者 |
平島 雅也 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター, 主任研究員 (20541949)
門田 宏 高知工科大学, 情報学群, 准教授 (00415366)
萩生 翔大 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (90793810)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 身体運動制御 / 身体運動学習 / 冗長性 / 到達運動 / 道具使用 |
研究実績の概要 |
運動制御・制御系が、身体全体の多自由度にわたる動きをどのように協調させながら、運動の成否に関わる低次元の量を制御しているのかという問題はこれまで十分に検討されてこなかった。本研究は、(1)多自由度を有する冗長な身体運動の制御・学習機序の解明、(2)その機序の視点から実践的な全身運動制御・学習動態の解明、(3)この機序を利用した動作変容システムを開発することを目的とする。今年度、各目的に関連して実施した研究の概要は以下のとおりである。 (1)我々が昨年度開発したスティック到達運動課題中、先端のカーソル位置およびスティックの角度に視覚的な外乱を与え、それに対するフィードバック応答と次試行における運動学習応答を調べた。その結果、いずれの外乱によっても両応答が観察された。スティック角度への外乱はカーソル位置に影響を与えないため修正する必要がないにも関わらず、修正応答を引き起こし、その結果、肝心のカーソル位置にずれが生じてしまうという興味深い結果が得られた。 (2)マーカーレスモーションキャプチャ技術を用いて測定するAIGIA社のシステムを用いて、様々な競技レベルのゴルファーのゴルフショットを対象とした計測を開始した。これにより弾道データと身体動作データの関連性を大量のデータを用いて分析できるようになった。 (3)実際の身体運動時に関節角度のデータを計測し、その身体データ依存性の筋電気刺激を加えるシステムを開発した。関節角度の計測には、スーツに縫い込んだ伸縮性の歪みセンサ(C-STRETCHセンサ)およびAzure Kinectセンサにより計測し、リアルタイムで角度、角速度に依存して筋電気刺激強度を変調させることのできるLabViewプログラムを作成した。このシステムにより、歩行、走行、スクワット、投球動作など多様な動作中に筋電気刺激を加え、動作に外乱を印加することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度から本研究課題に取り組んでもらう特任研究員を雇用したこともあり研究を加速して実施することができた。 多自由度運動課題の実験については、カーソル位置およびスティック角度に外乱を加えて修正応答、学習応答を見る実験についてはほぼ終了している。メインの結果については、特任研究員が低い採択率を乗り越えNeural Control of Movement学会に英語口頭発表演題に採択され好評を博した。そこで得られたフィードバックを参考に、現在、彼とともに論文化を進めている。 全身運動の動作変容システムについては、昨年度までに開発していたモーションキャプチャシステムによって計測したデータに視覚的な変換を加えて呈示するシステムに加え、力学的な外乱を加えるために、動作データを伸縮性歪みセンサやAzure Kinectセンサによって計測し、計測したデータを基に時間変化する筋電気刺激を加えるシステムを構築することに成功している。このシステムは、センサを取り付けたスーツを着る、もしくはカメラ空間内に入るだけで稼働させることができるので大掛かりなモーションキャプチャシステムを必要としない点で実践的な動作に活用しやすいメリットがある。 またゴルフショットを対象に実践的な多次元運動の計測にも着手した。大量の被験者から得られた弾道データと身体動作データを照合することにより、正確な弾道を実現するために必要な身体動作パターン、弾道と身体動作の再現性の関連についても重要な知見が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究計画は以下のとおりである。引き続き本プロジェクトに集中して取り組んでくれる特任研究員を雇用する。また、コロナ禍のためこれまでできなかった対面形式での研究グループ間の交流の機会を設けたい。 (1)多自由度運動課題を用いた運動制御・学習機構の解明:外乱への応答や学習を扱った部分についてはすでに論文化を進めており、今年度中の投稿・採択を目指す。さらに、冗長次元で生じる無駄な動きが、ミスやスランプに関連しているという仮説を検証する実験に着手する。 (2)実践的な動作の検討:ゴルフショットについて行っている計測を引き続き実施する。これに加えて野球やゴルフなど静止したボールを打つ際のバットやクラブヘッドの動きを高速撮影し、ボールにコンタクトする際のずれ、またそのときのバットやクラブの角度等(姿勢)を計測し、パフォーマンスに直接関与するボールコンタクト時のバットやクラブ位置と姿勢の関連を明らかにする。 (3)動作変容システムの開発と動作変容の実証:これまで開発してきた、計測データを元に視覚情報に変換を加えたり、筋への電気刺激を介して動作に外乱を加えるシステムを用いて、その結果生じる動作変容過程、例えば動作変容の程度、時間変化、定着率などを詳細に検討する実験を行う。
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