研究課題/領域番号 |
21H04885
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池上 高志 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10211715)
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研究分担者 |
橋本 康弘 会津大学, コンピュータ理工学部, 上級准教授 (10376494)
柏木 明子 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (40362652)
土畑 重人 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50714995)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 機械学習 / 生物集団 / 進化 / RNAseq |
研究実績の概要 |
2021年度は、3つの生物集団を対象として、一つのモデル・シミュレーションに関する実験を、計画どおりに開始することができた。その結果、以下のような新しい発見があり、それをSWARM-AROB国際会議(1/25-27/2022) にてorganized session (0S32: Collective Intelligence in Living /Non-Living Agents) を提案し、発表することが出来た。
1.セイヨウミツバチ(Gene Robinson)とのデータを用いて、人工的な巣箱のドアの開閉の前後で、巣内のハチの労働分化が生じ、それが時間とともに役割が固定化していく様子を解析した。2.テトラヒメナをいくつかの培養容器のなかでの運動をしらべ、その運動エネルギーの分布がウェルごとに異なること、複数の個体でその分布が異なること、などを発見した。また個体が分化にともなって増殖するときの運動の変化も解析している。3.アミメアリの個体集団を餌のないウェルで飼育し、アリの運動エネルギーの分布から、個体は2つの状態に分化していることがわかった。4.1000万匹の人工の群れのモデルをシミュレートし、秩序構造を運動エネルギー(K)とVicsekの秩序パラメター(V)で特徴つけ、群れを分類した。5. Webサービスが時間とともに発展していく様子を可視化し、クラスター化を見つけ出すことができた。
全体を通じて、集団の元気さの指標として運動エネルギーを採用することを提案。運動エネルギーの分布やバースト、ウェルごとのゆらぎから、同じ遺伝子を持つ個体の集団であっても、その振る舞いは、ウェルごと(群れごと)に異なっている。また、外部からの情報(ハチならば餌場、アリならば他のクラスターの存在か、と考える)によって、集団の内部で持つ情報が変化するように思われる。運動エネルギー=元気さと、外部からの情報の関係を突き詰め、それぞれの実験の結果をまとめつつ発展させるのが、次年度の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように、生物実験、人工の群れのモデルのシミュレーションともに非常にうまく進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に引き続いて、i)生物群集の記録と解析、ii) 人工の群れのモデルを行う。1年目に、2つの生物群集(テトラヒメナ、アミメアリ)の人工飼育と観察手法について確立した。この2つのシステムの安定運営を2年目に図る。特に、観測条件のライティングや温度、湿度、長時間録画の条件を安定化し、より解析に適した録画を行なう。 2年目は、データの解析・理論構築と、新たにデータを取得したい。データ解析は、特に深層学習のU-netを用いた、個体の同定とその追跡手法を展開する。 理論に関しては、集団内の役割分化の理論、および2:6:2分布(非常に働く個体/普通/サボる個体)の理論化に挑戦する。実際この実験で扱っている生物集団に関しては、そのような個体の役割分化が観測されているので、理論は実験を説明できるように精密化できると考えている。現在、ハチの巣の外部環境へのドアを開くことで内部に生まれる役割分化の解析を行い、その理論を構築中である。特に、情報熱力学で開発されてきた生物集団と環境の間の「相互情報量」を取り込んだ形式化をベースにしている。 実験に関しては、テトラヒメナの集団に関する実験においては、ウェルごとに性質が異なる、集団の個体数によっても集団の性質(運動エネルギー分布など)が異なることがわかっている。そこでRNAのsingle cell解析により、遺伝子発現パターンも集団のサイズや個体の個性によって分化しうるのかを解析する。 またウェブデータに関しては、クラスターの可視化に続いて、数理モデルによるメカニズムの説明、ウェブを用いた新しい進化モデルの提案を構想している。
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