研究課題/領域番号 |
21H04889
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中本 高道 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (20198261)
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研究分担者 |
奥村 学 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60214079)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 香り近似 / 要素臭 / 嗅覚ディスプレイ / 深層学習 / 自然言語処理 |
研究実績の概要 |
まず、要素臭探索アルゴリズムに関して、99種類の香水サンプルを測定して検討を行った。香水には無臭の保留材が含まれており、マススペクトルは保留材の影響を受けるという問題があった。そこで、保留材と香気成分のマススペクトルを独立成分分析を用いて分離する手法を考案し、十分な精度で分離できることがわかった。分離後のマススペクトルから要素臭を抽出する実験は今後行う。 嗅覚ディスプレイに関しては、電磁弁高速方式、弾性表面波霧化方式のデスクトップ型及びウェラブル型について、香り提示速度の比較を官能検査により行った。その結果、弾性表面波霧化方式の方が高速に香り提示が可能なことがわかった。 さらにセンシングデータ(マススペクトル)から香り記述子空間への写像を行い、パラメータの最適化により相関係数0.93まで予測精度を向上させることができた。この結果をもとに匂い記述子のスコアからマススペクトルの予測を試みた。マススペクトル特徴量から匂い印象を予測し、その結果からマススペクトルを予測した結果、ほぼ同じマススペクトル特徴量が得られ、官能データからマススペクトルの予測に成功した。また、りんご臭について、fruityやsweetの記述子のスコアを増加させて、対応するマススペクトルを得られた。そのマススペクトルに対応するりんご臭のレシピ等も求めたが、構成物質が多すぎるために今後最適化後に官能検査を行う。 香り記述子の言語空間を自然言語処理の手法を用いて構築する研究に関しては、今年度は、香りを表現する単語のベクトルを構築するベースとなる手法を検討した。事前学習モデル(文脈を考慮した表現学習手法)であるMirrorBERT、SimCSEを元にして、WordNetから得た反対語、同義語に関する知識を再学習に用いた結果、性能向上を見込めることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
香水の要素臭探索に関して、無臭の保留材が含まれているので香り近似精度に影響を与える懸念があった。マススペクトルに関してはほぼ保留材の影響を除去できそうな結果が得られたので、今後官能検査による検証に進むことができる。保留材はほぼすべての香水に含まれているので、この点は重要である。 それから、嗅覚ディスプレイについては20成分嗅覚ディスプレイがほぼ出来上がった状態にあり、要素臭を使用して嗅覚ディスプレイによる香り提示が今後できる見込みである。これまでは液体レベルで香りを調合して要素臭による香り再現実験を行っていたが、嗅覚ディスプレイを使うと香り提示の効率が一段と向上するために研究の進展が期待できる。 それから、香りの印象からセンシングデータ(マススペクトル)を予測する項目であるが、扱った匂いに関しては精度よく予測できている。センシングデータから官能データを写像する関数を深層学習により取得しているが、センシングデータを探索する際にその関数の勾配が必要である。次元数が多いのでこの勾配を数値的に求めると誤差が大きくなりセンシングデータ予測精度に影響を与える。本研究では、この勾配を解析的に導出することができたので、予測精度を高めることに成功した。 香り記述子の言語空間を自然言語処理の手法を用いて構築する研究に関しては、事前学習モデル(文脈を考慮した表現学習手法)であるMirrorBERT、SimCSEを元にして、WordNetから得た反対語、同義語に関する知識を再学習に用いた結果、性能向上を見込めることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、香水に関しては保留材の影響を取り除いて要素臭作成を行い、官能検査で検証する。香水はこれまでの精油サンプル以上に多様であり、要素臭による香水再現ができれば香り再現の範囲を大きく広げることができる。 嗅覚ディスプレイに関してはまだ手動操作が必要な部分があったが、これをすべてコンピュータから制御できるようにして、要素臭による香り再現実験を行う。嗅覚ディスプレイとしての課題は調合比率の十分なダイナミックレンジを確保することであるが、これは実験パラメータの最適化で達成できると考えられる。また、液滴射出素子として、インクジェット素子の検討も進める。 香りのクリエーションに関しては、まだセンシングデータの予測までで実際の香りを作り出すところまではまだできていない。そこで、まず分子の種類を絞った香りにより、提示した印象が実現できているかを調べ、その後に要素臭による近似実験を行う。数値データから実際の香りを作り出すところをぜひ行いたい。 香り記述子の言語空間を自然言語処理の手法を用いて構築する研究に関しては、来年度は、これまでの成果を元に、構築したモデルを改良することで、さらなる性能向上を目指す。
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