研究課題/領域番号 |
21H04890
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
岩崎 敦 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (30380679)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | メカニズム設計 / ゲーム理論 / 計量経済学 / アルゴリズム / 最適化 |
研究実績の概要 |
本研究では,制約付きマッチングや警備計画策定といった相異なる利害をもつ主体のインセンティブを調整しながら稀少なリソースを配分する仕組み(メカニズム)を実際のデータから評価・修正する,データ駆動型インセンティブ工学を構築する.従来の理論は定性的な分析から,現実の制度や慣習における課題を解決してきた.しかし,研究者が企業や政府の担当者を説得して新しいメカニズムを実践するには,その効果を定量的に示す方が望ましい.そこで最適化や学習のアルゴリズム技法を駆使し,データ駆動で新しいメカニズムを事前に評価する技術の理論的基盤を構築する.令和3年度の主な成果は,二部マッチングにおける容量拡張問題をモンテカルロ木探索を用いて解くアルゴリズムを開発した成果が人工知能系トップ会議の一つであるIJCAIに採択されたことである.また,制約付きマッチングをデータ駆動で検討するために,制約のないマッチングにおける実証研究を調査した.さらに,不確実な環境下におけるゲームの均衡計算アルゴリズムについても,先行の研究の再現と改良を進め国内学会で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研修医配属では,各病院が受け入れられる医師の人数に上限(容量制約)を事前に設定する.しかし、予め容量制約を定めてしまうと,事前の予想より人気のあった病院を希望する医師を,調整すれば受け入れられるにも関わらず,断らなければならなくなるという問題を引き起こしうる.そこで,医師と病院のお互いの効用(社会的余剰)を改善するための,anytime アルゴリズムを提案した.モンテカルロ木探索アルゴリズムを用いて,容量制約をどのように拡張するを探索し,社会的余剰を改善する拡張枠を作る.最適な安定マッチングを与える拡張枠を見つける問題は非線形制約をもつNP困難な最適化問題であり,先行研究では,与えられた最適化問題を整数計画問題に近似して解く手法を提案していた.当然これはanytime アルゴリズムではないため,計算が終わるまで実行可能解を得ることはできない.これに対して,モンテカルロ木探索アルゴリズムを用いると,最適解とは限らないが,いつどのタイミングでも実行可能解を得ることができる.さらに効率的な探索木表現を構築し,実行時間を大幅に改善し,整数計画法ベースの手法より,実行時間や解の質で優れた性能を実現することを計算機実験で明らかにした.
一方で制約のないマッチングにおける実証研究の調査では,効用が譲渡可能な仮定の下で,実証研究でよく扱われる「観測されない異質性」をどう扱うかを理解した.これにより政策担当者はそれぞれの参加者の観測可能な属性から参加者の選好を推定できるようになる.その結果,新しい課税規則を採用したときに,社会的余剰やマッチ数などに関する反実仮想的な分析が可能になることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
二部マッチングにおける容量拡張問題を制約付きマッチングに拡張する一方で,実証研究では,ある課税規則がもたらす効果を反実仮想的に求められたとしても,どのような課税規則を作ればよいかがすぐにわかるわけではないという問題に取り組んでいく.実際,政策担当者は地域制約を満たしつつ,社会的余剰を最大化することを目的とすると予測される.そこで,そのような最適な課税規則の作り方を検討していく.
一方で,国内学会での発表にとどまっているが,不確実な環境下におけるゲームの均衡計算アルゴリズムにおいて,目覚ましい成果が上がっており,これらを順次,人工知能系トップ会議に投稿していく.
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