研究課題/領域番号 |
21H04925
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
中田 典秀 神奈川大学, 工学部, 准教授 (00391615)
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研究分担者 |
竹内 悠 京都大学, 工学研究科, 助教 (70835272)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 環境鑑識 / COVID-19 / 下水疫学 / ターゲット分析 / ノンターゲット分析 |
研究実績の概要 |
新規感染症だけでなく、既知の多くの感染症が発熱を伴い流行する。その際、使用された薬の成分や原因となる病原微生物は下水道や河川流域の流末へ集まる。本研究では、総合感冒薬として発熱性疾患の初期治療に用いられ、薬局などで処方箋なしでも入手できる解熱鎮痛剤や咳止め薬成分の下水や河川水中濃度を継続的に測定することにより、疾病の原因はその瞬間には分からないまでも、ある下水処理区内または河川流域内における新規もしくは既知の発熱性疾患の流行発生の兆しを検知することを目的としている。 近畿圏の下水処理場1ヶ所にて、2020年9月から2022年3月まで、週に2から3回の頻度で24時間等量混合下水を130日分採水した。得られた下水試料(2連)と操作ブランクの超純水を、極力その日のうちにろ過し、ろ液へターゲット分析対象成分(12種、例えばアセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなど)の重水素化物をサロゲートとして添加し、固相抽出に供した。抽出試料の分析は、即日に液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)でターゲット分析を行い、分析終了後の試料を冷凍保存し、1、2カ月分をまとめてLC-四重極飛行時間型(QTof)/MSによるノンターゲット分析を行い、精密質量分析結果として蓄積した。 ターゲット分析対象成分のいずれも高頻度で検出された。Fexofenadine等の抗アレルギー剤の下水中濃度は、花粉の飛散量が増加する2から3月頃に上昇する傾向が2年連続で確認され、市販薬成分の使用状況が下水中濃度として応答することを示していると考えられる。一方、他の検出成分については、季節変動は確認されず、さらに調査対象下水処理場がある市もしくは県のCOVID-19や感染性胃腸炎の(入院)患者数の推移との間には明瞭な連動は示さないことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下水2試料と操作ブランク1試料の合計3試料を1日分の試料とした130日分の試料のターゲット分析は予定通り完了している。調査対象下水処理場がある市もしくは県内のCOVID-19患者数や感染性腸炎の患者数の情報を集積し、ターゲット分析結果との比較を行った。ターゲット分析が完了した試料のLC-QTof/MSによるノンターゲット分析も行い、すべての分析結果を精密質量分析結果として保管している。
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今後の研究の推進方策 |
保管している下水抽出液の精密質量分析結果の解析を進める。まず、LC-QTof/MSによる長期間の観測における変動や誤差などを確認し、検出ピークの解析における許容値を確認する。各調査日の下水からは、数万のピークが検出される。これらのピーク全てについて解析を進めるのは効率が悪いため、いくつかの無償または有償のライブラリーより統合した数万種の精密質量分析結果を搭載するライブラリーと照合し、プリカーサーイオンとフラグメントイオンの両方が一致(仮同定)した成分を抽出する。仮同定した成分について、調査対象下水処理場がある市もしくは県内のCOVID-19患者数や感染性腸炎の患者数の推移と比較を行う。連動する成分について、標準物質が入手可能であれば同定作業を行い、LC-MS/MSによるターゲット分析法を検討し、常時モニタリングの準備を進める。 LC-QTof/MSによる分析結果は、データ容量が大きく、さらに本研究では1年半分のデータを取り扱うため、データクリーニング・解析に用いるPCの高度化が必要である。
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