研究実績の概要 |
新規感染症だけでなく、既知の多くの感染症が発熱を伴い流行する。その際、使用された薬の成分や原因となる病原微生物は下水道に集まる。本研究では、下水処理区内における発熱性疾患の流行発生の兆しを検知するための指標物質(マーカー)の探索を目的としている。 近畿圏A市で1~3日おきに130日分採取され、採水日にろ過・固相抽出等の前処理を行った下水試料を、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)によりターゲット分析し、その後、1、2カ月分をまとめて液体クロマトグラフ-四重極飛行時間型質量分析計(LC-QTof/MS)によりノンターゲット分析を行った。本年度も、ノンターゲット分析結果の解析条件の最適化、異なる分析日間の感度変動補正方法の検討を行なった。検討の結果、分析に問題があると判明した試料については、保存試料の再分析を行った。また、COVID-19およびC型肝炎マーカーは、標準物質を精密質量分析し、ライブラリーを自作、同定・評価を行った。 長期間に渡る下水試料のLC-QTof/MS分析結果を解析する際の方法について、一部Excelでの操作が必要等の問題点はあるものの、最適化された。さらに、再分析に加え、定常的に検出される成分のピークによる感度の補正の結果、前年度までに定量分析で確認された推移に近似した結果が得られた。LC-QTof/MSによるノンターゲット分析の結果、positiveでは1,747成分、negativeでは967成分がアサインされ、COVID-19の患者数の推移と連動した化学物質として、positiveでは26成分、negativeでは10成分が確認された。先行研究で提案されているマーカーについては、本調査での分析法で再現性高く分析が可能であることが確認された。
|