研究課題/領域番号 |
21H04930
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
牧 輝弥 近畿大学, 理工学部, 教授 (70345601)
|
研究分担者 |
佐野 到 近畿大学, 情報学部, 教授 (10247950)
黒崎 泰典 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 教授 (40420202)
石塚 正秀 香川大学, 創造工学部, 教授 (50324992)
大西 一成 聖路加国際大学, 専門職大学院公衆衛生学研究科(公衆衛生大学院), 准教授 (50596278)
能田 淳 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (70551670)
松木 篤 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 准教授 (90505728)
定金 香里 大分県立看護科学大学, 看護学部, 准教授 (20322381)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
|
キーワード | バイオエアロゾル / 黄砂と煙霧 / 越境汚染 / 微生物群集構造 / 長距離輸送 |
研究実績の概要 |
黄砂や煙霧とともに微生物群(バイオエアロゾル)が,アジア大陸から日本へ越境輸送され,日本各地へと拡散沈着するため,その環境・健康影響に学術的関心が集まる。申請者らは,東アジア(日中韓蒙)において,黄砂を捕集する高高度調査(気球, ヘリコプター, 山岳積雪を使用)を実施し,日本へと越境輸送された微生物の種組成とその健康影響が,日本海沿岸と太平洋沿岸で大別できる可能性を突き止めた。しかし,観測地点は日本海側に偏り,太平洋側への国内移送や沈着程度を講じる観測が不十分であった。本申請では,日本本土(日本海ー太平洋)の観測地を拡充し,「越境微生物の国内での拡散・沈着過程」を理解すると伴に,その影響を評価する。 黄砂飛来時に日本海側(能登)と太平洋側(大阪,京都)の上空2500mにおいてヘリコプター観測を行い,高高度の大気粒子を捕集した。また,黄砂・煙霧発生が頻発する春から初夏(4月-6月)にかけて,金沢,鳥取,香川,東京,大阪,北海道の観測地において,建物屋上(高さ10m)で長期的に観測した。大気試料のゲノムDNAに含まれる細菌・カビの分類指標遺伝子(16SとITS)核酸塩基配列を解読した。遺伝子解析ソフト(Qiime2)で微生物群集構造を解析したところ,黄砂と煙霧によって細菌は越境されやすく,国内において真菌と混合する傾向が見られた。感染症(非結核抗酸症など)の原因菌も検出され,潜在的な長距離拡散が確認できた。また分離した真菌株のカビ毒生成も認められ,そのアレルギー誘発が動物実験で実証された。これより,黄砂煙霧とともに都市部まで拡散する有害種(キーストーン種)の候補に目処が立ちつつある。 こうした研究成果は,環境系の有名学術誌(EIやSTOTEN, AE)に多数掲載された。また,一般からの注目も熱く,本研究取り組みをまとめた内容がガリレオXやNHKスペシャルなどでテレビ放送された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黄砂煙霧の飛来時にヘリコプターを飛行させ,日本海側(能登半島)と太平洋側(大阪,京都)の上空2500mにおいて,高高度の大気粒子をフィルター上に捕集した。また,黄砂・煙霧発生が頻発する春から初夏(4月-6月)にかけて,金沢,鳥取,香川,東京,大阪,北海道の観測サイトにおいて,建物屋上(高さ10m)の大気試料を長期的に採取した。大気試料から直接抽出したゲノムDNA(環境ゲノム)から16S rRNA遺伝子とrDNAのITS領域(細菌・カビに普遍的に存在する種分類指標)をPCR増幅させ,その遺伝子情報を解読した。アジア大陸側の試料は,蘭州およびチベット,長家口で採取した粒子(全150試料以上)を使用した。遺伝子解析ソフト(Qiime2)で微生物群集構造を解析したところ,黄砂と煙霧によって細菌は越境しやすく,本国内において真菌と混合する傾向が見られた。感染症(非結核抗酸症)の原因微生物も検出され,潜在的に長距離拡散される可能性も見出した。大気粒子試料から分離した真菌からもカビ毒生成能力がタンパクレベルで検出され,その分離株のアレルギー誘発も細胞実験で実証された。これら結果から,黄砂煙霧とともに国内に拡散・沈着する有害種(キーストーン種)の候補として,Mycobacterium属やAspergillus属の種が挙げられ、今後、有害種を定量するモニタリング手法の確立が望まれる。 従って,越境輸送された微生物群集が国内で変化するプロセスが理解され,有害種の検出も順調に進みつつある。なお,大陸側の試料は、蘭州大学と中国科学院の共同研究者が入入手し,黄砂煙霧発生源の微生物情報も補充することができている。本研究成果は,環境系の有名学術誌(EIやSTOTEN,AE)に論文としてまとめられ,学術的にも高評価を得ている。これより、順調に成果が上がっていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度に続き,黄砂・煙霧時に大気試料を一斉に捕える観測(4月-6月)を継続する。試料に含まれる微生物群のゲノム情報を増やし,拡散沈着と潜在的な病原性を検証する。分離株も増やし,培養実験と疫学的調査による【生態・健康への影響評価】を本格化する。 バイオエアロゾルの環境分布調査に着手する。まず,キーストーン種(MycobacteriumやAspergillusに絞る)の遺伝子配列に特異的に結合するDNA断片(プライマー)を合成し,環境試料中からキーストーン種の遺伝子を遺伝子定量法(定量PCR法)で検出できることを検討する。主要観測サイト(能登, 鳥取, 大阪, 東京)で採取した試料を使って,定量PCR法を試行し,越境微生物(まず真菌と細菌を分別)の日本国内での拡散と沈着を定量的に検証する。遺伝子レベルでの検出法に加え,大阪では紫外線レーザーを使って大気粒子の蛍光を測定することで,キーストーン種のモニタリング手法(WIEBSとBiotrack)の確立を,英国共同研究者とともに目指す。
|