研究課題/領域番号 |
21H04932
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
柿沼 志津子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 放射線影響研究部, 部長 (20392219)
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研究分担者 |
尚 奕 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 放射線影響研究部, 主任研究員 (50533189)
森岡 孝満 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 放射線影響研究部, グループリーダー (70253961)
臺野 和広 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 放射線影響研究部, 研究統括 (90543299)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 発がん / 放射線 / ゲノム変異 / DNA二本鎖切断再結合配列 |
研究実績の概要 |
医療における放射線を用いた治療や検査の増加や、福島原発事故後の放射線への関心の高まりに伴い、放射線被ばくによる発がんが懸念されている。ヒトのがんの原因には生活環境や遺伝要因などがあるため、被ばくによる正しい発がんリスク評価や将来的ながん予防のためには、放射線発がん特有の分子メカニズムの解明が必須であるが、エビデンスは未だ十分ではない。我々は、マウスやラットを用いた大規模実験により「被ばくによる寿命短縮や発がんリスクは、被ばく時年齢や線質に依存する」ことや、一部のがんにおいて「放射線に特徴的なゲノム損傷がある」ことを明らかにし、国際的にこの分野をリードしてきた。本研究では、これまでの研究で得られた世界的に見ても貴重な腫瘍サンプルアーカイブをゲノムレベルで体系的に解析し、①放射線被ばくに特徴的なゲノム変異と発がんリスクの関連を明らかにし、②ゲノム変異に基づいて放射線発がんの分子機構を解明することを目的とする。得られた結果は、被ばくによる発がんリスク評価の精緻化に活用できるほか、被ばくした人の将来的な発がん予防のための分子標的戦略に活用できると考える。 R3年度は、肝がん、肺がんの病理組織解析を開始し、一部の実験群において発がんリスクの増加を確認した。Tリンパ腫とBリンパ腫については、各種変異解析を開始し、特定の染色体領域でゲノム欠失が明らかになった。また、Tリンパ腫のゲノム欠失領域について、二重鎖切断再結合によるつなぎめ配列(DSB再結合配列)のためのプローブ作成を行い、つなぎめ解析を開始した。 発がんリスクについては2報の論文、一部のゲノム解析結果については、解析結果を学会等で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R3年度は、肝がん、肺がんの病理組織解析を開始し、放射線被ばくにより一部の実験群において発がんリスクの増加を確認した。Tリンパ腫とBリンパ腫は、全エクソーム解析、ゲノムコピー数解析、RNAシークエンス解析を開始した。放射線被ばく後に発生したTリンパ腫とBリンパ腫において特定の染色体領域でゲノム欠失が明らかになった。また、Tリンパ腫のゲノム欠失領域について、二重鎖切断再結合によるつなぎめ配列(DSB再結合配列)のためのプローブ作成を行い、つなぎめ解析を開始した。 発がんリスクについては2報の論文として、また、一部のゲノム解析結果については、解析結果を学会等で報告した。計画は、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究部がこれまでに行ってきた大規模放射線発がん実験で得られたがんのサンプルアーカイブのHE染色デジタルデータやパラフィン包埋サンプルおよび凍結サンプルを用いて以下の解析を行う。 1) 腫瘍の病理組織解析による発がんリスクの解析:肝がん、肺がんの解析継続および乳がんの解析を継続し、放射線被ばくにより発がんリスクの増加が見られる実験群を決定し、ゲノム解析を開始する。 2)次世代シークエンスを用いた放射線特異的ゲノム変異の解析全:エクソームシークエンス解析により、遺伝子領域内の塩基置換及び、塩基の挿入・欠失・LOHなど遺伝子の機能に影響を与える変異を明らかにする。同時に、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)解析により、全ゲノム領域におけるDNAコピー数異常を明らかにする。Tリンパ腫とBリンパ腫について、解析を継続する。 3)DNA二本鎖切断再結合配列の解析:Tリンパ腫のゲノム欠失領域について、DNA二本鎖切断再結合配列の解析を継続する。 4)Ptch1ヘテロ欠損マウスの髄芽腫で明らかになっているゲノム欠失領域について、DNA二本鎖切断再結合配列の解析を開始する。
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