研究課題/領域番号 |
21H04934
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
朴 昊澤 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), グループリーダー代理 (10647663)
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研究分担者 |
田上 雅浩 気象庁気象研究所, 気象観測研究部, 研究官 (20735550)
檜山 哲哉 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (30283451)
一柳 錦平 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (50371737)
渡邉 英嗣 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), グループリーダー (50722550)
鈴木 和良 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), 主任研究員 (90344308)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 北極温暖化増幅 / 水循環 / 水同位体大気大循環モデル / トレーサーモデル / 永久凍土 |
研究実績の概要 |
同位体比の変化に基づいて降水から流出までの水循環の変化を評価するために、既存の降水同位体観測地点であったヤクーツクとフェアバンクスのサイトにおいて、土壌水、積雪水、及び河川水の採水を追加し実施した。レナ川中流のタバガにおいて、十日に一度程度の頻度で河川水を採取した。水蒸気の安定同位体比の連続測定装置を導入するとともに、野外で水蒸気を連続採取して室内で分析するシステムの構築を進めた。 フラックス観測を行っている東シベリアのカラマツ林(2ヶ所)周辺を対象に、衛星観測データである正規化植生指数(NDVI)の長期変化傾向と、生育期(5月から8月)における気温と降水量の長期変化傾向との関わりを調べた。その結果、北極域の温暖化が、単に東シベリア・カラマツ林の生育にプラスに寄与することのみならず、降水量増加によって部分的な枯死を引き起こし、北方林にダメージを与えうることが得られた。この結果とは相違に、極東シベリアに位置するコリマ流域を対象にした観測データとモデル結果の解析では、降水量の増加が2年後の蒸発散量の増加に寄与していたことを示した。 蒸発散量と河川流出量に対する起源水(融雪水・降雨・地下氷融解水・古い土壌水)の寄与率を評価するトレーサーモデルを開発して、ヤクーツクの観測サイトを対象にしてモデルの検証を行った。全球同位体循環モデルにおいて同位体プロセスの精度を高めるためにセミラグランジュスキームを取り入れた。モデル出力と重力観測衛星GRACEから土砂と有機炭素流出を評価するため、モデル出力に球面調和関数を適用するためのアルゴリズムを調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の影響により現地調査は不可能となったものの、ロシアとアラスカの研究協力者に依頼して同位体観測システムを構築しサンプリングを開始し、サンプルの一部を日本に輸送して解析を進めた。温暖化の影響により水循環の変化が顕著に現れているツンドラ域に位置するカナダのキャンブリッジベイにおいて、同様の同位体観測を実施するために観測装置の輸送を完了した。アラスカで実施予定であった水蒸気の同位体測定を日本で実施することになり、連続測定するシステムと並行して手動で水蒸気を採取して分析する方法も構築した。アラスカのボナンザークリックの観測サイトで研究協力者によって得られた樹液流の観測データがSAPFLUXNETに公開された。そこにアーカイブされている全球の観測データを利用することで、北極域の樹木の貯留量を推定することが可能になった。 観測体制を整備していく中、モデル班では新しい計算スキームの開発及びプロセスを改良したことで、温暖化の影響を受けた水循環の変化が北極海、そして北極域の気候に対する影響を評価するシステムの整備が進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には海外研究者の協力を得ながら、東シベリアとアラスカにおいて同位体観測を実施した。しかし、2022年2月24日に始まったロシア軍によるウクライナへの侵攻と、それに対する日本政府の制裁措置を受け、2021年度に取得した観測データについてはロシア国外への持ち出しが不可能な状況となっており、2022年4月末時点で一部のデータが未入手のままである。同様の状況が2022年度にも続くことが予想されるため、アラスカとカナダを中心に観測研究を行い、そこで得られた成果をモデルに反映して環北極域に適用していく計画に変更する予定である。 モデル班は、各モデルにおけるプロセスの開発・改良を行っていくとともに、モデル間の連携を強化し、陸域の水循環の変化が河川流出を通して北極海の水・物質収支に及ぼす影響、そして気候にフィードバックするその影響を評価するシステムの構築を2022年度に重点的に行う計画である。
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