研究課題
海洋表層に溶存する二酸化炭素(CO2)とメタン(CH4)のガス濃度を連続計測するために用いてきた気液平衡法システムを微量水銀ガス用に改良し、広島大学実習船「豊潮丸」にて瀬戸内海で試験運用した。その結果、夏季の瀬戸内海における溶存ガス中水銀濃度は30~50 pg/L程度であった。これらの値はマニュアル方式での測定値と概ね一致しており、気液平衡法システムによる計測値が妥当であることが分かった。しかしながら、連続水銀モニターの大気吸引速度が大きいため、気液平衡器内の水位変動に伴ってシステムが不安定となり、モニターに海水が混入しそうになる事態が多発した。この問題点に対し、平衡器に水位調整弁を取り付けて平衡器の強度を確認したところ解決することができた。この改良システムを2022年2月に東シナ海及び琉球海溝にて実施したJAMSTEC研究船「かいめい」での観測航海で運用し、夜間でも無人で連続観測を行うことができるようになった。しかし、海水と大気の計測ラインを自動切り替えする時に大気中水銀濃度が有意に高くなることが明らかとなり、その原因について調査中である。一方、本研究の根幹となる水銀ガスフラックスを直接計測する緩和渦集積法測定システム(以下、REA-Hgシステム)について、水銀ガスの測定に影響を及ぼす可能性の少ない部品の選定等を実施し、CO2とCH4ガス用に開発したサンプリングライン切替ユニットをガス状水銀用に改良し直しているところである。
3: やや遅れている
REA-Hgシステムで得られるデータの検証のために使用する従来法の連続方式の気液平衡法システムの改良がやや遅れている。このシステムはCO2とCH4という濃度がppm~ppbレベルのガス成分の溶存ガス濃度の計測に使用されていたものであり、また同成分の計測モニターへの大気吸引速度は数十mL/min程度で十分であった。一方、ガス状水銀濃度はCH4濃度の百万分の1であるppqレベルであり、本研究で導入している高感度な計測モニターを使用してもモニターへの大気吸引速度を300mL/min以上とする必要がある。このような大幅な大気吸引速度の増加によって起こる気液平衡器内の水位変動に伴って気液平衡器内の空気の流量制御が不安定となり、ガス状水銀モニターに海水試料が混入してしまう問題点が生じるようになった。この問題点を解決するために、平衡器内の水位の変動を抑制する調整弁の設置や海水が混入してしまったガス状水銀モニターの修理等に時間を要した。また、気液平衡器の改良に伴う作業の影響により、本研究の根幹となるREA-Hgシステムの開発もやや遅れている。また、R03年度に予定していた独自のアルゴリズムを用いた船体動揺計測装置を新規に開発する作業にも着手できていない。
従来法であるガス交換モデル法に使用する気液平衡法システムの改良及び試験運用も完了し、無人運転での海洋表層のガス状水銀濃度の連続計測もある程度可能になったことから、本研究の根幹となるREA-Hgシステムの開発をさらに進める。同時に、既存のREA測定システムに組み込まれている船体動揺計測装置では風速変動の真値が得られない場合があるので、独自のアルゴリズムで船体の3軸速度・角度を算出する船体動揺計測装置を導入し、REA測定システムの精度向上を図る。開発したREA-Hgシステムを土壌表面などで試験的に運用し、その動作性を確認する。また、北太平洋西部海域で実施予定の学術研究船「白鳳丸」の研究航海においてREA-Hgシステムを試験運用し、気液平衡法システムとの比較検討を行う。得られた結果を解析し、REA-Hgシステムの問題点を抽出する。さらに、同海域において表層海水をクリーン採水法により採取し、化学形態別分析を実施して、海水中濃度と水温・塩分等のデータと水銀フラックスとの関係性を調べる。一方、昨年度に実施した気液平衡器を用いた瀬戸内海及び東シナ海・琉球海溝における観測結果について水銀国際会議ICMGP2022にて研究発表(オンライン)を行う。
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Bulletin of Glaciological Research
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