研究課題
本研究の鍵となる水素を含む鉄合金系の実験を集中的に行った。Fe-FeH系はFukai (1992)以来、連続固溶体系と考えられていた。しかし本研究により、Fe-FeH系の融解開始温度が端成分FeHの融解温度よりも十分低いことが明らかとなり、>40GPaでは共融系であることが初めてわかった。さらにFe-FeH系の共融点組成(水素濃度)ならびに固体-液体鉄間の水素の分配を見積もることに成功した。共融点の水素濃度は外核中の水素量の上限を与える、外核-内核間の水素の分配が計算可能になるという意味で、これらは極めて重要な成果と言える。Fe-FeH系の共融点組成が得られたことにより、外核が軽元素に乏しい内核を結晶化するための条件が厳しくなった。そして、この条件を満たす組成範囲と、外核で観測される密度・縦波速度を説明する組成範囲がほとんど重ならない(この2つの制約を満たす組成範囲がかなり狭い)ことがわかった。さらには、本研究の技術開発の目玉であるクライオSIMSの開発に成功し、高圧下でコア(金属鉄)-マントル(シリケイト)間で水素の同位体が大きく分別する結果が得られた。これにより、地球全体の水素同位体比が推定できた上、隕石のデータと比較して地球の炭素/水素比を得ることができた。軽元素同士の大きな相互作用を考慮した、超高圧下での固体鉄(内核)と液体鉄合金(外核)の間の軽元素の分配係数も明らかになった。これらの結果を基に、外核・内核それぞれの軽元素組成を狭い範囲に絞り込むことに成功した。その他、液体鉄合金の密度・速度の測定、リキダス相関係の決定、固体鉄・鉄合金の密度・速度決定、金属-シリケイト間の軽元素分配などを精力的に進めた。
1: 当初の計画以上に進展している
理由は、本研究のゴールである「コアの軽元素組成を狭い範囲に絞り込むこと」に成功したことにある。今回見積もられたコア全体の化学組成はFe0.69-0.70Ni0.04S0.02Si0.02-0.03O0.08-0.12C0.01-0.02H0.08-0.14である。このようにコアの軽元素組成が狭い範囲に制約されたことは、地球の起源(コア形成論、海の起源論、惑星起源論)に重要な貢献を果たす。加えて、今回明らかになった地球全体の水素同位体比から見て、地球に水をもたらした物質はどのタイプの隕石にも当てはまらない。このことは、地球の水の起源を見直す必要があることを意味している。コアの軽元素組成の制約は、コアのダイナミクス、惑星磁場形成メカニズム、熱的・化学的進化の理解への貢献も大きい。コアの熱伝導率は不純物(つまり軽元素)の組成に大きく左右されることがわかっている。今回推定された外核・内核それぞれの組成は水素に富んでおり、水素の不純物抵抗が小さいことから、コアの高い熱伝導率が裏付けられた。これは、液体コアが熱対流を起こすことは難しい、また内核も熱対流していないことを意味している。今回外核の化学組成が狭い範囲に絞り込まれたことを受け、コアの温度を精度良く決定できるようになった。これにより、マントル最下部に観測される超低速度領域が融解によるとすると、マントルの底に溜まった低融点物質を特定できる可能性がある。また、コアとマントル間の温度差はコアの冷却速度を決めるだけでなく、マントル対流の活発さを決めている。このようにコア温度の精密決定はマントルの熱構造や進化、ダイナミクスの理解にも大きな貢献がある。
本研究の主目的である「コアの軽元素組成の解明」に関して、本研究ではこれまで6つの独立した制約を基に、コアの組成を狭い範囲に絞り込むことに既に成功している。今後は、未だにコア組成の探索に使用できていない3つの制約(内核の密度・縦波・横波速度)に関する研究を加速させ、内核組成、そしてそこから分配係数を使って計算される外核組成を絞り込む。同時に、現段階でコアの硫黄量の見積もりは始原的隕石の組成に基づいており、本研究が明らかにする鉄-硫黄合金の特性と地震学的観測を制約にした見積もりへと置き換える。また、地球全体の水素同位体比を説明する地球の集積モデルや水の起源に迫る。より具体的には、液体鉄合金の密度決定をコア圧力下へと圧力範囲を伸ばす。液体Fe-Hの縦波速度の測定を開始し、外核の主要な軽元素である水素と酸素の密度と速度への効果を定量化する。クライオSIMSを用いて、水素を含む鉄合金の状態図の作成をさらに進める。熱力学モデルの構築にも力を注ぐ。内核条件下での固体鉄合金の密度・速度の第一原理計算を加速させて、地震波観測を説明する、内核組成の可能な軽元素組成を広く探索する。固体鉄と鉄合金の速度については、スプリングエイトと東工大で高圧高温の測定を進める。これら実験データを使って理論計算結果の圧力を補正し、より確かな内核組成の制約を行う。液体金属から固体鉄への軽元素の分配については、鍵となる水素の分配の、共存する他の軽元素の影響を調べる。これによって、化学平衡にある内核組成と外核組成の関係を明らかにし、内核組成の制約を外核組成の制約に活かす。これらの結果を用いて、可能なコアの軽元素組成の範囲を常に見直していく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (32件) (うち国際共著 18件、 査読あり 32件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 図書 (2件)
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