研究課題
昨年度は、まず液体鉄合金の特性について、液体Fe-H、FeO、FeSの3つにつき、高圧高温下でX線回折測定を行い、液体のハローパターンから密度を決定した。このうち液体Fe-Hについては実験データの取得を終え、既に存在する理論計算結果と比較して、縦波速度の圧力効果が小さいことが明らかになった。Fe-FeH系の状態図については、コア圧力下までの実験データ取得を終え、地球内核条件下までの熱力学モデルを使った外挿と状態図の作成もほぼ完成した。熱力学モデリングについては、Fe-H系に加え、Fe-C系の状態図(特にリキダス相関係)を発表した。内核条件下での第一原理計算については、機械学習を取り入れる試みを開始した。SPring-8にて行っている非弾性散乱測定によって、固体鉄の縦波速度を176万気圧と2300Kまでの高圧高温下で測定することに成功した。液体金属から固体鉄への軽元素の分配については、液体中のケイ素・硫黄・炭素の3つの相互作用を取り入れた元素分配モデルを完成しつつある。コア-マントル間の水素の同位体分別を調べる実験により、コアの水素まで含めた地球全体の水素同位体比は海水よりもかなり重元素に富むことがわかった。その値は小惑星リュウグウの値に近く、地球の水の起源として小惑星帯由来を支持する結果が得られた。さらに元々計画していなかった重要な成果として、鉄-ヘリウム化合物が比較的低圧下でも合成されることを発見した。このことは、始原的なヘリウム同位体が従来考えられていた深部マントル起源ではなく、コア由来であることを強く支持する。
1: 当初の計画以上に進展している
まず、当初の目的である、地球コア組成の見積もりに関して、これまでは地球コア温度を仮定していたが、Fe-H系の状態図の作成に成功したことから、コア中の特定の水素量に対するコア温度への影響を定量化し、コア温度を仮定しない見積もりを初めて行うことに成功した。その結果、従来仮定していた(広く受け入れられていた)コア-マントル境界の温度4000Kよりも、コア温度は低い可能性があること、さらには最下部マントルの全地球的な融解を避けることができる3600K以下の可能性も十分あることが明らかになった。このことは、コア組成に加え、コア温度も制約しつつあるという意味で、計画以上の進展と言える。加えて、不活性ガスの代表格であるヘリウムが、わずか20万気圧以下の高圧下で鉄と化合物を作ることを偶然発見した。ヘリウムは原始地球を取り巻いていたネブラガスの主成分の1つであり、この発見はコアの軽元素としてヘリウムも重要である可能性を意味する。また、ハワイなどで観察される始原的なヘリウム同位体の起源が深部マントルではなく、コアにある可能性を強く示唆する結果であり、下部マントルの理解にとっても重要な発見と言える。
今後は、まず液体鉄合金の特性について、液体FeOとFeSの2つにつき、高圧高温下でX線回折測定を今年度さらに行い、液体のハローパターンから密度を決定する。広い圧力温度範囲でデータを集め、状態方程式を構築する。また北大における極低温下の二次イオン質量分析法と、 SPring-8におけるX線回折測定の両輪で、Fe-Si-H系とFe-O-H系の液体金属から固体鉄への分配まで含めたリキダス相関係の決定を、地球コアに相当する高圧下まで伸ばす。この実験を通じて、ケイ素と水素、また酸素と水素の間の相互作用について明らかにする。これまでの高圧実験と第一原理計算のデータをベースにした、熱力学モデルの構築にも引き続き力を注ぎ、Fe-O系、さらにはFe-C-O系の状態図を内核圧力まで完成させる。内核条件下での第一原理計算については、固体Fe-H系に加え、Fe-Si-H系やFe-S-H系にも発展させ、内核組成を制約する。 固体鉄・鉄合金の縦波速度については、SPring-8にて行っている非弾性散乱測定を、これまでの固体鉄に加え、固体Fe-H合金の測定を開始する。また東工大でも、超音波を使った縦波速度測定を高圧室温下で行う。高温の測定にも挑戦する。これら固体鉄・鉄合金のデータを使って、内核の密度と縦波/横波速度の観測をコアの化学組成の制約に加えることにより、硫黄量を仮定することなく、コア組成を狭い範囲に制約していく。昨年度行った高圧下でのFe-He化合物の合成にならい、今後はFe-Xe系の実験も行って、コアへの希ガスの分配の可能性をさらに探り、地球や火星のミッシングキセノン問題の解決にも挑む。
国際共同研究1.フランス・グルノーブルアルプス大のGuillaume Morard博士と、外核と内核の間のシリコンと硫黄の分配に関する共同研究国際共同研究2.台湾・国立中央大学のHan Hsu教授と、鉄-ヘリウム化合物の構造と磁性に関する共同研究
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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