研究課題/領域番号 |
21H04974
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
足立 伸一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 理事 (60260220)
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研究分担者 |
野澤 俊介 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (20415053)
片山 哲夫 公益財団法人高輝度光科学研究センター, XFEL利用研究推進室, 主幹研究員 (90648073)
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研究期間 (年度) |
2021-05-18 – 2026-03-31
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キーワード | X線 / 時間分解 / 物理化学 / ダイナミクス / 放射光 / 溶液散乱 / 構造解析 |
研究実績の概要 |
我々の研究グループでは、これまでに溶液中における超高速な分子構造変化を時間分解X線散乱の計測手法により明らかにしてきた。本計測手法の現状での最大の課題は、従来法におけるS/N比の限界により、実験試料となる分子内に金(Au)やヨウ素(I)といった元素周期表の第5、第6周期より下に位置する比較的重い元素が含まれていなければ、計測対象にできていないという点にある。本研究課題では、X線散乱計測におけるサンプリング周波数をkHzオーダーからMHzオーダーへと約3桁向上させることにより、計測のS/N比を約30倍改善し、軽元素のみから構成される分子の溶液中の分子構造変化をX線散乱により直接観測することに挑戦する。これにより、本計測手法が適用できる分子種の範囲を画期的に拡大し、超高速分子構造科学における新しい研究分野を創成することを目指している。 MHz繰り返し測定に適した励起光源として、Yb:KGW結晶をレーザー媒質とし、基本波長1030nmで、最大平均出力80W、最大繰り返し周波数2MHz、最大パルスエネルギー2mJの性能が実現できる高出力フェムト秒レーザー(Light Conversion社CARBIDE)を前年度に導入したが、令和4年度はこのレーザー装置を、ビームラインの繰り返し周波数等の個別仕様に合わせたシステムとして動作できるよう整備を行なった。レーザー設置用のレーザーブースおよび実験ハッチ内にYb:KGWレーザーシステムおよび高調波発生装置(Harmonic Generator; HG)、光パラメトリック増幅器(Optical Parametric Amplifier; OPA)が配置され、赤外域から紫外域まで幅広い波長領域でMHz繰り返し運転が可能な高強度レーザー装置となっている。 またこれと並行して、X線自由電子レーザーを活用した時間分解溶液散乱実験を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、これまでの2年間で、MHz繰り返し時間分解X線溶液散乱測定の実施場所であるKEKのPF-ARのビームラインNW14Aにおける計測のための準備を継続して推進している。研究代表者らは、2003年より、このビームラインを利用して、ピコ秒オーダーの時間分解X線溶液散乱計測のためのビームライン整備に取り組んできた。今後さらなる装置整備を進め、本研究の目的の実現を目指す。 今年度は5年計画の2年目であり、今後の計測において本質的に重要な役割を果たす大型装置の調達・導入と、それらの装置をビームラインの繰り返し周波数等の個別仕様に合わせたシステムとして動作させるための環境整備を進めた。またレーザー装置の導入と並行して、高速読み出しX線検出器として、最高2kHzのフレームレートで読み出しが可能な、DECTRIS社の2次元ピクセル検出器Eiger2 1Mを選定し、次年度に向けてこのX線検出器の導入作業を進めている。 さらに、既存のX線自由電子レーザー施設を活用した時間分解溶液散乱実験を進めた。共同研究者の片山を中心として、光増感剤のプロトタイプである銅(I)フェナントロリン錯体に光エネルギーを与えると、分子が振動しながら正四面体型から平面型へと平坦化するダイナミクスを時間分解X線溶液散乱によって観測することに成功した。特に、金属錯体(溶質分子)とアセトニトリル(溶媒分子)のそれぞれの構造変化を原子の位置情報として直接観測したことは特筆に値する。本研究で目指している軽元素のみから構成される溶媒分子の過渡的な構造変化を捉えることに、部分的ながら初めて成功したという意味で、今後の展開に向けて重要なマイルストーンとなる研究成果であると考えている。 これらの取り組みの成果を踏まえて、本研究課題の進捗状況については、当初の計画通り概ね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、年次計画に従って、ビームライン光学系のアップグレード、MHz繰り返し高強度レーザー装置の導入、高速読み出し式X線CCD検出器の導入等を実施するとともに、軽元素のみから構成される測定試料として、どのような分子が最初にデモンストレーションするのに適切かを考慮しつつ、新しい時間分解X線散乱計測の実現に向けて挑戦する。 まず、申請当初に軽元素のみから構成される分子の光化学反応が検出可能かどうかについて、実験データのシミュレーションを行った。濃度0.5mMのアゾベンゼン(C12H10N2)溶液(溶媒:シクロヘキサン)について、光励起後のシス・トランス異性化に伴う時間分解X線溶液散乱信号の信号/ノイズ比のシミュレーションの結果、現状の1kHz繰り返し測定の場合には、ノイズレベルが高く、有機分子からのX線散乱信号はバックグラウンドノイズに埋れてしまう。これに対して、794kHz繰り返し測定の場合には、有機分子からのX線散乱信号がノイズレベルを上回って観測できており、本申請における検討内容の妥当性を示した。 令和3、4年度には、有機分子の構造フィティング用プログラムの開発や測定に有望な分子の探索を行ってきた。MHz繰り返しの時間分解X線溶液散乱実験の最初の試料としては、いきなりハードルを上げて、軽元素のみから構成される分子を用いるのではなく、まずはすでに素性が分かっている試料を用いて、信号/ノイズ比の向上を段階的に評価しつつ、徐々に本来の目的である軽元素のみから構成される分子へと進めてゆく。そのような意味で、まずは、有機分子中に重原子が1個含まれるような分子を合成または購入し、実験を開始するべく準備を進める。
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