研究課題/領域番号 |
21H04975
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上坂 友洋 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (60322020)
|
研究分担者 |
緒方 一介 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (50346764)
銭廣 十三 京都大学, 理学研究科, 准教授 (70529057)
|
研究期間 (年度) |
2021-05-18 – 2026-03-31
|
キーワード | クラスター / 原子核物質 / アルファ崩壊 / 陽子中性子相関 / ノックアウト反応 / GAGG:Ce |
研究実績の概要 |
本研究では、核物質内で陽子や中性子が「クラスター」構造を形成する現象を、ノックアウト反応と呼ばれる研究手法を用いて解明する。2021年度は逆運動学ノックアウト反応実験のための検出器アレイ建設着手、反応理論研究、及び新規実験提案を行った。 TOGAXSI(戸隠)と名付けられた、逆運動学クラスターノックアウト実験に特化した検出器アレイは、粒子飛跡を決定するシリコンストリップ検出器と粒子エネルギーを測定するGAGG:Ceシンチレータにより構成される。2021年8月にHIMACで加速される陽子及びアルファ粒子ビームを用いて性能評価実験を行った。その結果、シリコンストリップ検出器のノイズレベルはエネルギー損失等価で高々4 keVであり、本課題の要求を満たしていることが確認された。また、GAGG:Ceシンチレータは、28mm角の感応面積を持つ光ダイオードを光検出に用いた場合、100 MeVの陽子に対して⊿E/E=0.5%と本研究の要求を十分上回る性能を発揮することを明らかにした。これを受け、2021年12月に開催されたRIBFの国際プログラム・アドバイザリー委員会にTOGAXSI建設プロポーザルを提出した。プロポーザルは国際委員会で高く評価され、強い後押しを受けている。 並行して、クラスターノックアウト反応理論の研究を進めた。特に束縛エネルギーが小さい、脆いクラスターのノックアウト反応を記述する新反応模型CDCCIA(連続状態離散化チャネル結合インパルス近似)を開発した。これにより、α粒子のような固いクラスターに限らず、d, t, 3Heといった様々なクラスターをノックアウトする反応を理論的に記述する大きな枠組みが構築された。 以上に加え、クラスターノックアウト反応機構の基盤研究を目的とした計画を大阪大学RCNP国際共同研究・共同利用プロジェクトとして提案し、高い評価を得て採択された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題で建設するTOGAXSアレイについては、各検出器要素が当初の想定を越える性能を持っていることが明らかになり、その結果国際コミュニティからの注目も集め、より強化された国際コラボレーションのもとRIBFの国際プログラム・アドバイザリー委員会に建設プロポーザルを提出できた。TOGAXSIの有用性は国際コミュニティに広く知られることとなり、中性子過剰炭素同位体のαクラスター研究、(α,αp)反応を用いた一粒子強度の研究、多中性子状態の研究と我々の当初計画にない共同研究として広がりつつあり、今後更に大きく広がるものと考えられる。唯一、コロナウイルス蔓延にともなう世界的な半導体流通鈍化で、シリコン検出器の製作スケジュールが遅れ、一部製作を2022年度に持ち越すこととなったが、現時点では課題遂行に大きな影響を及ぼさないと考えている。 クラスターノックアウト反応理論の研究では、CDCCIAの開発により、α粒子のような固いクラスターに限らず、d, t, 3Heといった様々なクラスターをノックアウトする反応を記述する大きな理論枠組みが構築されたことになる。この他、α崩壊核からのαノックアウト反応の分析、αノックアウト反応によって誘引される核偏極、重陽子をプローブとする包括的ノックアウト反応の描述、核子・αノックアウト反応における吸収効果の系統的評価といった、様々な視点からのノックアウト反応理論理論的研究が進行中であり、本課題の基盤となるとともにそのスコープを広げている。 本課題発足にともない、国内外の原子核物理学分野で中重核内のクラスター構造に関する議論を深める機運が高まっている。2022年度基礎物理学研究所が主催する長期滞在型ワークショップでも本課題に深く関連するテーマが採り上げられることとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に書いたようにコロナウイルス蔓延に伴う影響等によりTOGAXSIアレイの建設スケジュールが幾分遅れている。これに伴い、2023年度実施を予定していた中性子過剰カルシウム同位体に対する実験は、その時点で利用可能な検出器要素を最適化したTOGAXSIデモンストレータを用いて実施し、その上で2023年度末に揃う検出器を用いて2024年度早期にTOGAXSIアレイを完成させる対応策をとった。これにより当初の予定と大きな齟齬が無い形で研究を進めることができる。2023年には今後実施する重い原子核に対するクラスターノックアウト反応実験の提案書をRIビームファクトリーとHIMAC施設に提出する予定としている。 本研究課題の基盤となるクラスターノックアウト反応機構研究が、大阪大学核物理研究センターの国際共同研究・共同プロジェクトとして認められたことにより、同センターの強い支援のもとこの課題が進められることとなった。2023年度前期にはカルシウム40標的を用いた最初の実験を実施する。この実験から世界で初めてとなる、インパルス近似が成立する陽子エネルギー250MeVにおける、広い運動学領域を覆う(p,pd), (p,pt), (p,3He)データが取得される。このデータは、本課題のみならず今後のクラスターノックアウト研究のベースラインとなるものとなる。2023年度後期以降も順次安定原子核に対するデータを取得して行く。 着々と進んでいるクラスターノックアウト反応理論の研究に対して、上記で取得された実験データと比較することにより、定量的な評価とフィードバックを行う。これと平行して理論の精度向上を目指し、考慮する重陽子分解チャンネルの拡張、素過程の詳細な分析、非束縛二核子ノックアウトへの拡張などを進める。
|