研究課題/領域番号 |
21H04975
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上坂 友洋 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (60322020)
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研究分担者 |
緒方 一介 九州大学, 理学研究院, 教授 (50346764)
銭廣 十三 京都大学, 理学研究科, 准教授 (70529057)
黒澤 俊介 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 特任准教授 (80613637)
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研究期間 (年度) |
2021-05-18 – 2026-03-31
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キーワード | クラスター / 原子核物質 / アルファ崩壊 / 陽子中性子相関 / ノックアウト反応 / GAGG:Ce |
研究実績の概要 |
本研究では、核物質内で陽子や中性子が「クラスター」構造を形成する現象を、ノックアウト反応と呼ばれる研究手法を用いて解明する。2022年度は昨年度行った検出器の性能評価と全体設計をベースに、GAGG:Ceシンチレータの製作とシリコントラッカーの詳細設計、読み出しエレクトロニクスの整備と開発を進めた。GAGG:Ceは35×35×120立方mmの結晶を72本作成した。作成済の20本及び韓国基礎科学研究所から提供されることとなった10本と合わせた配置により、方位角の約75%を覆う大立体角検出器アレイの建設を進める。GAGG:Ceからのシンチレーション光を検出する光センサーは、その後の検討により、光収集効率の位置依存性を最小化できる28mm角の光ダイオードを用いることとした。シリコントラッカーについては、100μm厚、100μmピッチのストリップ検出器をベースに、アクセプタンスを最大化できるフレキシブル基板を用いたデザインを採用することとした。以上に加え、必要となる読み出しエレクトロニクス・モジュールを購入し、2024年度の完成に向け検出器全体の建設を進めた。 これに加えて、原子核内のクラスター生成率決定のため、ノックアウト反応を分光手法として確立する反応理論の開発を進めた。特に束縛エネルギーが小さい、脆いクラスターのノックアウト反応を記述する連続状態離散化チャネル結合インパルス近似を開発した。これにより、α粒子のような固いクラスターに限らず、d, t, 3Heといった様々なクラスターを取り扱う大きな枠組みが構築されたことになる。 更に、今後行うノックアウト反応を用いた研究の信頼度を高く保つために、ノックアウト反応機構の理解を深化させる基準反応データ取得計画を策定し、これを250 MeV陽子ビームを用いたプロジェクトとして大阪大学核物理研究センター(RCNP)に提案し、採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
検出器アレイTOGAXSIの建設自体はコロナウイルス蔓延や東北地方で生じた地震等の不可避の事情により半年ほど遅れているが、本課題が国内外の原子核物理分野に及ぼした波紋は、建設の遅れを補ってあまりあるほど大きいと言って良い。過去優れた理論研究が多くなされる一方、汎用性の高い実験手法の欠如により発展が制限されていたクラスター研究に、ノックアウト反応という汎用性・生産性の高い研究手法を持ち込んだことにより、この分野が活性化された。その一端を示すのが、京大基研が2022年5月に開催した国際ワークショップでノックアウト反応を用いたクラスター研究が主要テーマの一つ取り上げられたこと、原子核物理学分野で最も重要な会議であるINPC2022で研究代表者がクラスター物理に関するプレナリ-講演を依頼されたこと、本プロジェクトの原動力となっている若手研究者3名が連続して日本物理学会若手奨励賞を受賞したことから窺われる。 原子核反応理論においても当初の想定を越えた進展がある。クラスターが分解するチャンネルの取り扱いは、本課題応募時には主としてインパルス近似に対する補正と見なしていたが、これをより積極的に非束縛クラスターなどの原子核内の一般的な二核子相関を研究するために活用する新しいアイデアとして発展しつつある。 TOGAXSIアレイの開発においても、性能評価実験で得られたGAGG:Ce無機シンチレーション検出器のパフォーマンスは当初の想定以上に高く、アレイ全体として想定以上の高い性能が出ることが期待される。現在、TOGAXSIの高い性能に着目した新しい実験、中性子過剰炭素同位体のαクラスター研究、(α,αp)反応を用いた一粒子強度の研究、多中性子状態の研究が提案されている。これらの多くは本研究課題とは関連しつつそのスコープを広げる研究であり、本研究課題が無ければ生まれなかった研究である。
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今後の研究の推進方策 |
TOGAXSI建設においては、2023年度に反跳陽子部分とクラスター検出部分の暫定セットアップを完成させ、2024年夏までにクラスター検出部分の最終セットアップを完成させる。 2023年夏には、待望の初実験を大阪大学RCNPサイクロトロン施設にて実施できる予定となっている。この実験により、ノックアウト反応に最適な250MeVの入射エネルギーで、広い運動学領域に渡って0.5MeVを切るエネルギー分解能のクラスターノックアウト反応データが世界で初めて得られる。これを用いて、反応機構研究、クラスター構造研究を順次進める。特に、重陽子、三重陽子、3Heクラスターに対しては世界初のデータとなる。また、2023年下半期以降に、理研RIビームファクトリーSAMURAI磁気分析装置を用いて、中性子過剰カルシウム同位体(50-52Ca)に対するクラスターノックアウト反応実験を実施する。上記の反応理論を用いてクラスター生成率を決定し、論文発表を行う。その後順次中重核に対する実験研究を実施する。 以上と平行して、クラスターノックアウト反応を記述するDWIA及びCDCCIA理論の高度化を進め、重陽子ノックアウト反応における重陽子分解効果の定量的記述、t, 3Heノックアウト反応における分解効果の評価、クラスターノックアウト反応における偏極効果の理論的研究を順次進める。上記に加え、CDCCIA拡張によるダイニュートロンなどの非束縛クラスターノックアウト反応記述、DWIAを用いたクラスター誘起核子ノックアウト反応の記述など、本研究課題の発展研究に関わる理論研究を行う。 2023年度には、前哨研究より議論を行ってきたダルムシュタット工科大学のStefan Typel氏を日本に長期招聘し、核物質及び有限原子核におけるクラスター生成の議論を行う。
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