研究課題/領域番号 |
21H04976
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
影山 龍一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, センター長 (80224369)
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研究分担者 |
磯村 彰宏 京都大学, 医生物学研究所, 特定准教授 (70512466)
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研究期間 (年度) |
2021-05-18 – 2026-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / 短周期発現振動 / Hes1 / 細胞周期 / サイクリン依存性キナーゼ阻害因子 / p21 / Erk / Dusp7 |
研究実績の概要 |
神経幹細胞でHes1の発現が振動すると活性化状態に、高レベルで持続すると静止状態になる。そこで、Hes1の発現が振動する神経幹細胞、およびHes1の発現が高レベルで持続する神経幹細胞からRNAを回収し、異なる発現を示す細胞周期制御遺伝子を網羅的に探索した。その結果、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子p21を同定した。Hes1の発現が振動するとp21の発現が抑制されて神経幹細胞の増殖が活性化されるのに対して、Hes1の発現が高レベルで持続するとp21の発現が増加して神経幹細胞の増殖が抑制されることが分かった。前者の場合は、Hes1がp21プロモーターに直接結合することでp21の発現を抑制した。後者の場合は、初めHes1はp21の発現を抑制したが、10時間後あたりからDusp7の発現を抑制してリン酸化Erkを増やすことでp21の発現を増加させた。したがって、Hes1は振動か持続かという発現動態を変えることによってp21の発現を抑制あるいは増加し、神経幹細胞の増殖を活性化あるいは抑制化することが明らかになった。 次に、神経幹細胞に光遺伝学的Hes1発現誘導システムを導入し、Hes1の発現を2.5時間周期で同期振動させて経時的にRNAを回収しトランスクリプトーム解析を行った結果、Hes1と同期振動する417遺伝子を同定した。この中に、多くの細胞周期制御遺伝子が含まれていたので、今後、これらの遺伝子とHes1の発現振動との関係を明らかにする予定である。 神経幹細胞ではHes1の発現振動によってプロニューラル遺伝子Neurog2の発現が振動する。その下流因子を解析したところ、徐々に蓄積してHes1の発現を抑制した。したがって、Hes1及びNeurog2のパルス数は非対称分裂開始のタイマーの役割を担うことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記のように、3つのテーマの研究が進展した。「(1)遺伝子発現振動と細胞周期との関係について」に関しては、既にHes1の発現動態が振動か持続かでp21の発現抑制あるいは発現増加を誘導し、神経幹細胞の増殖を活性化あるいは抑制化することを明らかにした。また、Hes1のような短周期振動する新たな遺伝子を同定するために、神経幹細胞に光遺伝学的Hes1発現誘導システムを導入し、Hes1の発現を2時間周期で同期振動させて経時的にトランスクリプトーム解析を行ったところ、Hes1と同期振動する417遺伝子の同定に成功した。「(2)遺伝子発現振動の生物時計としての役割について」に関しては、Hes1の発現振動でプロニューラル遺伝子Neurog2の発現が振動し、その下流因子の発現が徐々に蓄積してHes1の発現を抑制することで神経幹細胞が非対称分裂するということを見出し、Hes1やNeurog2のパルス数によって神経分化が開始するというタイマー機能を明らかにした。「(3)遺伝子発現振動の細胞間位相差の生理学的意義について」に関しては、同位相のHes1発現振動を誘導できるシステムを構築した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)(遺伝子発現振動と細胞周期との関係について)に関して、Hes1と同期振動する417遺伝子の同定に成功し、多くの細胞周期制御因子が含まれていることを見出した。今後、この中から10種類程度の代表的な因子を選び、Hes1との位相関係を調べる。また、これらの因子を介してHes1によって細胞周期が同期する分子機構を明らかにする。 (2)(遺伝子発現振動の生物時計としての役割について)に関しては論文投稿中なので、受理に向けて追加実験を行う。(3)(遺伝子発現振動の細胞間位相差の生理学的意義について)は、同位相のHes1発現振動を誘導できるシステムを構築したので、今後、細胞間で同位相のHes1発現振動を誘導して脳形成に異常が見られるかどうかを検討する。(4)(遺伝子発現振動を可能にする細胞内環境について)に関して、本成果は、認知症治療や再生医療への応用が期待されたので、今後、応用に向けた可能性を探る。
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