研究課題/領域番号 |
21H04981
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
明和 政子 京都大学, 教育学研究科, 教授 (00372839)
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研究分担者 |
長井 志江 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任教授 (30571632)
菊水 健史 麻布大学, 獣医学部, 教授 (90302596)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | 発達 / 相互作用 / 母子関係 / 内受容感覚 / 腸内細菌叢 / 同期 |
研究実績の概要 |
育児する側(養育者)にとって、子どもは「ヘテロ(不均衡)」な存在である。両者の心身の不均衡さは、「相手の行動予測が難しい・心的状態を理解する手がかりに乏しい・社会的報酬が得にくい」といった困難を生じさせやすく、養育者の心身をいっそう疲弊させる。養育者の心身のストレスを軽減し、精神的問題の未病化を図ることは喫緊の課題といえるが、この点において、養育する側とされる側をそれぞれ個別に支援する従来の枠組みを超え、「養育者―子」をセットとして支援する新たな発想が重要となる。
本研究は、養育者と子どもが双方に影響しあう身体生理状態の変動を可視化し、不均衡な状態を安定した状態へと導く新たな支援へとつなげる基盤を提案することを目的とする。とくに、養育者-乳幼児の相互作用により生じる個体間の身体生理・行動制御の「動態(リズム生成~同期)」に着目する。両者の生体動態は、それぞれの個に閉じた静的なシステム(閉鎖系)ではなく、日々の相互作用で変容し続けるオープンシステム(開放系)である。本研究は、この見方を基軸に、ヒトの発達・育児という営みのシステム的理解を目指している。
当該年度は【課題①】として、ヒトとマウスを対象に、養育個体-子(仔)の相互作用時の心拍・自律神経系・行動の時系列データを収集し、両個体の経時変化(同期)の可視化を目指した。身体内部状態の特性として、各個体の腸内細菌叢も変数として解析した。その他、ヒトを対象とした研究では、ストレスや認知発達、気質といった精神機能の評価も実施した。これらのデータから、相互作用時に発生する動態と身体内部状態・精神機能の形質との関連を検討した。マウスを対象とした研究では、母仔の相互作用時の動態を可視化した。各個体の身体内部状態については、神経細胞操作と薬理実験により、腸内細菌叢とホルモン分泌の安定化効果についても検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度に計画していた【課題①】遂行のプロセスでは、以下の問題が生じた。 (1)当初計画では、2021年度中にヒト母子間を対象とした予備実験を終える予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、ヒ対面での調査が長期にわたって実施不可能となった。また、コロナ禍による流通の問題により、各種実験装置の手配も遅延したため、年度内の納品が困難となった。(2)コロナ禍の事由により、メンバー間の対面での定期的な打ち合わせや、若手研究者が各研究室を訪問し、交流する機会も中止された。(3)マウスを対象とした研究において、妊娠前の状態でのテレメトリー装置装着手術により母マウスにストレスがかかり、ネグレクトが観察された。
これらの問題については、以下の方法により解決した。 (1)計画変更(計画遂行の延期)を決定した。感染者数が減少した時期に集中的に予備調査を進め、当初計画どおり予備調査を遂行した。さらに、対面での調査が困難となった時期を有効活用するため、日常場面の親子の生体データを収集する新たな調査を開始した。計78ペアの親子に協力いただいたが、結果として、世界でも類を見ないきわめて貴重な成果を得ることができた。(2)オンラインによる国内外拠点の交流を当初予定よりも頻繁に行うことを心がけた。月2回以上の頻度でオンライン会議を実施し、最新の進捗共有や研究者間の信頼関係の維持に努めた。結果として、当初予定よりも密に情報共有しながら研究を進めることができた。若手研究者が日々つながり、主体的かつ頻繁に意見交換や課題解決に向けた相談を行うなど、想定外の交流の好循環も生まれた。(3)については、想定外の問題が功を奏し、実験的手法の介入により多様な相互作用のモデル化が実現できる可能性が示された。それにより、多様性創発の機序解明に向けて、内分泌ならびに腸内細菌叢に焦点をあてた検証へと発展させた。
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今後の研究の推進方策 |
実験装置が納品されたため、【課題①】の本調査を開始し、加速して研究を推進する。2023年度中に、本実験のデータ収集、結果のとりまとめ、成果報告を終える予定であるが、現時点で順調に進めることができている。また、学術専門職員の新規雇用も決定したため、当初予定されていた計画の遂行を加速度的に進めていく。
具体的には、以下の方策で研究を推進する。 (1)ヒトを対象とした研究では、実験室での対面調査推進に注力する。生後半年頃およびその1年後の2時点で縦断的にデータを収集する。実験室環境でより定量的な手法を用いて、生後初期の身体生理(心拍・自律神経系)と行動の動態(リズム生成~同期)を評価する。データの解析は、(クロス)リカレンスプロットと自己組織化マップを組み合わせた時系列解析手法などを用いて、自律神経系の同期パターンや精神機能・認知発達との関連について検証を進める。腸内細菌叢については、食生活習慣に関するデータを重視しながら、この時期の「腸内細菌叢-自律神経系-行動・精神」の関連が相互作用時において、個体「内・間」でどのように推移していくかを明らかにする。唾液採取による内分泌ホルモン(i.e.,コルチゾール、オキシトシン)の個人差評価についても本格的に進める。(2)マウスを対象とした研究では、これまでに引き続き、妊娠期間から授乳期間における両者の相互作用時の行動および自律神経系の時系列データをすべて取得し、両者の関係性が多様となっていく機序、およびそれに関連する要因を明らかにする。とくに、これまで見出したネグレクトモデルを中心に、データ駆動型での解析を進める。上記に加え、育児を開始した母マウスに見知らぬオスマウスを暴露させ、そこで生じたストレスが自律神経系ならびに母性行動にどのような影響を与えるか、さらには母仔間の関係性が変容するかについても検証する。
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