研究課題/領域番号 |
21H04987
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤田 全基 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20303894)
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研究分担者 |
猪野 隆 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 講師 (10301722)
奥 隆之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, リーダー (10301748)
金子 耕士 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (30370381)
森 道康 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (30396519)
池田 陽一 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40581773)
河村 聖子 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究副主幹 (70360518)
大河原 学 東北大学, 金属材料研究所, 技術一般職員 (10750713)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | 偏極中性子散乱 / 高温超伝導 / スピントロニクス / スピンダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、スピン交換光ポンピング(SEOP)法を活用した中性子偏極デバイスを高エネルギー分光器に実装し、多重外場環境(温度・磁場・圧力・電場)と共存させることで物質内の動的スピン情報を詳細に取得する手法の実現を目指している。この目的の達成のために、(1) SEOP法によるスピン偏極技術の確立とデバイスの実装、(2) 多重外場環境と共存するスピン偏極計測環境の構築、(3) 複合励起の成分分離と微視的状態の解明の三項目を連携して進めた。先ず、(1)については、3He用ガラスセルを内包したコンパクトなSEOPシステムを作成した。研究をスタートしたばかりであるが、これまでの実績からコンパクト化したSEOPシステムをJ-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)の中性子回折装置に実装し、スピン偏極ビームの生成に成功した。ただし、高偏極率の実現と偏極率保持には改善の余地があることがわかった。(2)に関しては、圧力セルを独自開発し、MLFのSENJUで重い電子系超伝導体CeNiGe3に対する圧力下中性子回折実験を行った。安全上の理由で4 GPa級の圧力実験には至らなかったものの、1-2 GPaの圧力下で実施した中性子実験の結果、非整合反強磁性磁気反射の観測に成功した。一方、研究用原子炉JRR-3に研究代表者と分担者が管理する分光器を整備し、非弾性散乱実験が可能な環境を整えた。また、偏極実験を効率的に進めるため、JRR-3へのSEOP導入も検討を始めた。この様に、研究の初年度に注力すべき(1)と(2)については、開発、整備を予定通り進めることができた。(3)に関しては、T*構造銅酸化物高温超伝導体を新たな研究対象として見出し、単結晶作成放射光X線散乱実験とミュオンスピン回転/緩和実験を行った。その結果、希薄ホールドープ領域で超伝導が発現する注目すべき事実を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は研究に用いる試料の評価環境とSEOPを始めとする測定環境の構築に注力した。分担者の奥と猪野が中心となってSEOPの性能評価と高度化を進め、MLFの回折装置に設置したSEOPで偏極ビームの生成を行った。また、高エネルギー中性子分光器POLANOにおいて、試料に対して上流側にSEOPを設置することもできた。同時に下流側のSEOPを検討し、必要となる大口径ガラスセルの開発に着手した。SEOPと共存可能な外場発生システムとして、温度・磁場・圧力・電場の各項目の検討を行った。圧力、温度に関しては実験を行った。最大の難問である磁場についても、金子を中心とするチームで入念な議論と準備を行った結果、超伝導磁石のデザインの大枠を決めるに至った。ただし、コロナ禍での渡航制限のため、超伝導磁石を開発可能な海外メーカーの技術者が、MLFおよびJRR-3に来所できず、最終判断は次年度に持ち越しになった。10年ぶりに運転が再開するJRR-3では、分光器の稼働に多くの調整と課題解決が必要であったが、非弾性散乱が行える状況にまでこぎ着けた。分光器ごとの状況に合わせた検討項目はあるが、これにより、新測定手法の開発に対して中性子ビームを最大限活用できる環境の構築に目処を付けた。また、2022年度から本研究で雇用する人材を確定できた。一方、測定対象に関しては、新しく選定したT*構造銅酸化物高温超伝導体の電子状態の解明のため、これまで作成が困難であった希薄ホールドープ領域の試料合成に取り組み、フッ素置換することで目的とする試料を得ることができた。本年度に導入したX線回折装置で、合成した多数の試料の評価が即座に可能になり、良質な試料の作成スピードが向上した。2月には中性子利用に関する研究会を開催して、情報発信と伴にニーズ調査も行えた。この様に、研究のファーストステップを順調に踏み出せた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度から、本研究の専任となる特任助教を東北大学で雇用する。この専任特任助教は、MLFとJRR-3にてコンパクトSEOPの高度化と超伝導磁石の導入をメンバーと共同して行う。SEOPの高度化については、3Heガス圧や、RbとKの比を変えた混合ガスの最適化、3Heガラスセルの形状の最適化を検討してSEOPシステムのさらなる高度化を推進する。また、実験の効率化のため、偏極ステーションの数を増やすと伴に、中性子ビームライン上で3Heガスを偏極するオンビーム型SEOPシステムの導入を検討する。後者の超伝導磁石の導入が、本研究で大きな課題であるため、(1)のSEOPチームと(2)の外場環境チームも連携して、グループ全体で超伝導磁石の最終規格を早期に決定する。このために、海外の専門家をMLFとJRR-3に招聘する。専任助教は、磁場環境下でSEOPによる偏極実験を行うため、安全対策や必要機器の検討および100meVまでの中性子の偏極維持に必要な磁場環境の計算も担当する。中性子ビームの有効利用と測定環境の構築を強力に推進するため、JRR-3熱中性子分光器のさらなる整備を進める。SEOPの導入はJRR-3では始めとなるため、試料環境チームとも協力して必要要素を洗い出し、広いエネルギー帯域で偏極実験が可能な環境構築を目指す。単独外場下の非偏極ビーム実験もスタートしているので、複合励起に関する詳細情報の収集に務める。このために、銅酸化物で見られるスピン・電荷秩序とその揺らぎに対する圧力印可実験、スピン流・熱電変換物質(Y,Tb)3Fe5O12に対する磁場印可実験を行う。これらは偏極ビームが得られて進める実験の基礎データにもなる。また、銅酸化物とスピン流・熱電変換物質以外に、本研究で提案する共鳴スピン分解法を適応することでインパクトが得られる研究対象を開拓する。
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