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2022 年度 実績報告書

スーパーカミオカンデ超新星爆発ニュートリノ観測による爆発天体の早期特定

研究課題

研究課題/領域番号 21H04989
研究機関東京大学

研究代表者

中畑 雅行  東京大学, 宇宙線研究所, 教授 (70192672)

研究分担者 小汐 由介  岡山大学, 自然科学学域, 准教授 (80292960)
池田 一得  東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (90583477)
研究期間 (年度) 2021-07-05 – 2026-03-31
キーワードニュートリノ / 超新星爆発
研究実績の概要

Super-Kamiokande(SK)では、2020年に硫酸ガドリニウム八水和物の総重量にして約13トンを初導入して、0.01%のガドリニウム濃度で約50%中性子捕獲効率を達成した。その後、約2年間にわたり安定したデータ取得を継続できた。2021年には原料の品質によらない、新たな精製プロセスの開発を企業と共同で行い、その結果、より放射性不純物の少ない硫酸ガドリニウム八水和物を安定して製造することに成功した。2022年には、納品された硫酸ガドリニウム八水和物の全ロットについて、ゲルマニウム検出器とICP-MSを持ちいて品質確認を行った結果、我々の要求を満たすものであることを確認した。2022年6月から7月には、硫酸ガドリニウム八水和物の総重量にして約26トンを追加導入して、 0.03%のGd濃度で75%の中性子捕獲効率を実現させることができた。
超新星爆発方向決定プログラムの改良では、ガドリニウムによる中性子捕獲信号を使って逆ベータ反応事象をタグし、電子散乱事象と区別することで、方向決定精度を向上させた。モデルによっては10kpcの超新星方向決定精度を3度以内という目標を達成できた。さらに、HEALPIXという天文分野で広く使われているスカイマッピングツールを用いて、検出された事象方向をHEALPIX上にマッピングしその分布の形から超新星爆発方向を得ることができる手法を開発した。同時に、これまでの最尤法を用いたプログラムの改良を行い、HEALPIXを用いた手法を組み合わせることで、これまで約10分かかっていた計算を数秒で行うことができ、かつ方向決定精度もより良い結果を得ることに成功した。ハードウェアの改良では、これまで計算時間のボトルネックとなっていたディスクアクセスの向上のために、SSDの導入を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究を申請した際には、2021年度(令和3年度)に高純度硫酸ガドリニウム八水和物を製造し、2022年度(令和4年度)には0.01%から0.03%ガドリニウム濃度になるように硫酸ガドリニウム八水和物を導入するという予定であった。また、その期間に早期に超新星爆発を検知するシステム(高速トリガーシステム)を構築するという予定であった。26トンの硫酸ガドリニウム八水和物製造では、開発した新しい製造方法を用いて、より品質の良い硫酸ガドリニウムを製造することに成功した。2022年6月1日から7月5日にかけて導入が行われた。これらは年次計画に沿っており、遅れはない。その後、水の透過率も9月初めごろまでには安定し、その後各種検出器の較正が行われ、順調にデータ取得が行われている。
また、超新星爆発の信号を早期に捉える高速トリガーシステム(SNWATCH)においては、精度の向上と計算時間の短縮に成功している。具体的には、ガドリニウムによる中性子捕獲信号を使って逆ベータ反応事象をタグし、電子散乱事象と区別することで、方向決定精度を向上させた。モデルによっては10kpcの超新星方向決定精度を3度以内という目標を達成できた。一方で、HEALPIXという天文分野で広く使われているスカイマッピングツールを用いる新たな手法を開発し、同時にこれまでの最尤法を用いたプログラムの改良を行った。その結果、これまで約10分かかっていた計算を数秒で行うことに成功した。ハードウェアの改良では、これまで計算時間のボトルネックとなっていたディスクアクセスの向上のために、SSDの導入を行い、今後パラメータを調整するこでさらなる高速化を目指す。
以上のように研究は当初予定したスケジュールで順調に進んでおり、達成度は「順調に研究が進展しており、期待どおりの成果が見込まれる」と判断できる。

今後の研究の推進方策

硫酸ガドリニウム八水和物のSKへの導入は順調に完了した。今後いつ超新星爆発が起こっても信号を逃さないようにSK-Gdの安定的な運転を継続していく。超新星爆発方向の計算については、開発した新しい方向計算手法により、これまで分単位の時間がかかっていた計算を数秒に改善されることが分かっている。今後はSNWATCHへの実装に向けて、パラメータの最適化や、MCによるパフォーマンスチェック等、細かい調整と修正を進めていく。一方で、SSDを増設した新しいシステムにおいて、平行処理数の最適化等を行い、さらなる高速化を目指す。上記改良により、世界へのアナウンスにかかる時間を1分以内に抑えることが可能であると見込んでいる。
超新星爆発が起こった時に、世界の天文台に早急に通知するSNWATCH は速報性が最も重視される。それに加えて、より詳細かつ正確なデータ解析(オフライン解析)手順の確立、およびそれに必要な解析プログラムの開発を、2023年度以降で行なっていく。具体的には取得したデータに不備がないかの基本的な確認に加え、観測した事象のエネルギーをより正確に決定することが超新星爆発モデルの特定に必要不可欠であることから、線源や電子ビームを用いた様々な検出器較正をできるだけ迅速に進め、取得した事象のエネルギー・位置・方向・時間をより正確に決定するための手順を固める。また、取得した超新星ニュートリノ観測データから最大限の物理を引き出すためには、電磁波観測(可視光、赤外、X線、γ線、電波)や重力派観測との連携は欠かせない。情報の早急な発信を行うため、国内外を問わず観測・理論の両面での超新星爆発研究コミュニティとの連携をより一層強化していく。それにより超新星爆発におけるマルチメッセンジャー天文学という新たな研究分野を確立する。

  • 研究成果

    (27件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Development of ultra-pure gadolinium sulfate for the Super-Kamiokande gadolinium project2023

    • 著者名/発表者名
      K.Hosokawa 他
    • 雑誌名

      Progress of Theoretical and Experimental Physics

      巻: 2023 ページ: 013H01

    • DOI

      10.1093/ptep/ptac170

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Searching for Supernova Bursts in Super-Kamiokande IV2022

    • 著者名/発表者名
      M.Mori 他 Super-Kamiokande collaboration
    • 雑誌名

      The Astrophysical Journal

      巻: 938 ページ: 35

    • DOI

      10.3847/1538-4357/ac8f41

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Pre-supernova Alert System for Super-Kamiokande2022

    • 著者名/発表者名
      L. N. Machado 他 Super-Kamiokande collaboration
    • 雑誌名

      The Astrophysical Journal

      巻: 935 ページ: 40

    • DOI

      10.3847/1538-4357/ac7f9c

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] First gadolinium loading to Super-Kamiokande2022

    • 著者名/発表者名
      K.Abe 他 Super-Kamiokande collaboration
    • 雑誌名

      Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A

      巻: 1027 ページ: 166248

    • DOI

      10.1016/j.nima.2021.166248

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] SK-Gd実験におけるGd質量濃度0.01%での超新星背景ニュートリノ探索2023

    • 著者名/発表者名
      M.Harada
    • 学会等名
      新学術「地下宇宙」第9回超新星ニュートリノ研究会
  • [学会発表] SK-GdのGd追加導入と現状2023

    • 著者名/発表者名
      K.Hosokawa
    • 学会等名
      新学術「地下宇宙」第9回超新星ニュートリノ研究会
  • [学会発表] SK-Gdにおける超新星爆発モデルの区別と方向決定精度の評価2023

    • 著者名/発表者名
      Y.Kashiwagi
    • 学会等名
      新学術「地下宇宙」第9回超新星ニュートリノ研究会
  • [学会発表] スーパーカミオカンデでの超新星ニュートリノ観測における酸素原子核反応の研究2023

    • 著者名/発表者名
      F.Nakanishi
    • 学会等名
      新学術「地下宇宙」第9回超新星ニュートリノ研究会
  • [学会発表] Joint Pre-Supernova Monitor with Super-Kamiokande and KamLAND2023

    • 著者名/発表者名
      Z.Hu
    • 学会等名
      新学術「地下宇宙」第9回超新星ニュートリノ研究会
  • [学会発表] SK-Gd実験での超新星背景ニュートリノ探索における大気ニュートリノ背景事象の研究2023

    • 著者名/発表者名
      S.Sakai
    • 学会等名
      新学術「地下宇宙」第9回超新星ニュートリノ研究会
  • [学会発表] The Super-Kamiokande Pre-Supernova Alert System2022

    • 著者名/発表者名
      L.N.Machado
    • 学会等名
      天文学会
  • [学会発表] SK-Gd実験の現状と展望2022

    • 著者名/発表者名
      Y.Koshio
    • 学会等名
      天文学会
  • [学会発表] 2022夏、SK-Gdによる超新星ニュートリノ高感度観測開始2022

    • 著者名/発表者名
      M.Ikeda
    • 学会等名
      日本物理学会シンポジウム
  • [学会発表] SK-Gd実験のための硫酸ガドリニウム・8水和物の不純物測定2022

    • 著者名/発表者名
      K.Hosokawa
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] SK-Gd実験における中性子同定と超新星背景ニュートリノ探索の現状2022

    • 著者名/発表者名
      M.Harada
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] SK-Gd 実験における超新星背景ニュートリノ探索に向けた信号事象のシミュレーションとトリガー手法の検討2022

    • 著者名/発表者名
      S.Izumiyama
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] Evaluation of neutron tagging efficiency for SK-Gd experiment2022

    • 著者名/発表者名
      M.Harada
    • 学会等名
      ICHEP2022
    • 国際学会
  • [学会発表] SK-Gd2022

    • 著者名/発表者名
      M.Vagins
    • 学会等名
      XXX International Conference on Neutrino Physics and Astrophysics (NEUTRINO2022)
    • 国際学会
  • [学会発表] Galactic Supernova Detction with EGADS/HEIMDALL2022

    • 著者名/発表者名
      L.Marti
    • 学会等名
      Synergies at new frontiers
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] SK-Gd の現状と将来2022

    • 著者名/発表者名
      K.Ieki
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] EGADS/HEIMDALL - a galactic core collapse supernova detctor2022

    • 著者名/発表者名
      L.Marti
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] Super-Kamiokande Supernova monitoring upgrade with Gd neutron capture2022

    • 著者名/発表者名
      G.Pronost
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] スーパーカミオカンデによる超新星爆発警報のための超新星爆発モデルを用いた検出器応答シミュレーション2022

    • 著者名/発表者名
      Y.Kashiwagi
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] SK-Gdにおける超新星ニュートリノと酸素原子核との反応についての研究2022

    • 著者名/発表者名
      F.Nakanishi
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] SK-Gd実験におけるAm/Be線源を用いた中性子検出効率評価2022

    • 著者名/発表者名
      M.Harada
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] SK-Gd報告2022

    • 著者名/発表者名
      K.Hosokawa
    • 学会等名
      新学術「地下宇宙」第8回超新星ニュートリノ研究会
  • [備考] スーパーカミオカンデ超新星爆発ニュートリノ観測による爆発天体の早期特定

    • URL

      https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/~nakahata_s/kakenhi-kibanS/

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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