研究課題/領域番号 |
21H04992
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坪木 和久 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (90222140)
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研究分担者 |
伊藤 耕介 琉球大学, 理学部, 准教授 (10634123)
山田 広幸 琉球大学, 理学部, 教授 (30421879)
堀之内 武 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (50314266)
篠田 太郎 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (50335022)
高橋 暢宏 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (60425767)
清水 慎吾 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究部門, 主任研究員 (70462504)
大東 忠保 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究部門, 主幹研究員 (80464155)
山口 宗彦 気象庁気象研究所, 応用気象研究部, 主任研究官 (80595405)
南出 将志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90884916)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | スーパー台風 / 急速強化過程 / 二重壁雲構造 / 航空機観測 / ドロップゾンデ / 高解像度モデル / 台風強度予測 / データ同化 |
研究実績の概要 |
航空機観測の準備として、新しいジェット機ガルフストリームIVにドロップゾンデ観測システム、ドロップゾンデ観測データの航空機から名古屋大学および気象庁へのリアルタイムデータ送信システム、フライトレベルの温度等のデータ取得システムを整備した。 2021年9月29日にスーパー台風Mindulleが沖縄本島の南西、北緯23度付近に達したとき航空機観測を実施した。観測時にはスーパー台風の強度を下回っていたが、高度13.7kmで、バタフライパターンで眼への3回の貫入観測を行った。眼と眼の壁雲の周辺に合計31個のドロップゾンデを投下し、そのデータを名古屋大学へリアルタイムで送信する実験を成功させた。これにより中心気圧と最大風速に加えて、眼の暖気核構造が観測された。このデータを用いて台風の中心に現れる暖気核の構造を調べ、対流圏上部の暖気核の空気は海面から壁雲を経由して眼に流入した空気の断熱昇温によって形成していることを明らかにした。 台風Mindulle(2021)の航空機観測の実施時に、南大東島で観測用航空機が上空を飛行するときに高層気象観測を同期して実施した。これによりドロップゾンデ観測データの検証を行った。 2018年に航空機観測が実施された台風Tramiのシミュレーションを大気海洋結合モデルで実施し、台風と海洋の相互作用によって台風強度が50hPa程度変化していたことを示すとともに、航空機観測でも確認されていた眼の領域における深い対流雲の再現に成功した。この深い対流雲は暖気核の消滅に関連する重要な過程を可視化していることが示唆された。 二重壁雲の壁雲交換が起こった過去の事例をもとに,高解像度シミュレーションを行い,衛星観測データとともに強度変化プロセスを解析した。その結果をもとに,静止衛星観測に基づく最新の風速プロダクトを模したデータを同化する観測システムシミュレーション実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は本研究課題の初年度で、航空機観測の準備と試験飛行、地上観測によるドロップゾンデの検証、数値シミュレーションによる研究が主な実施計画であった。そのなかでも中心課題はスーパー台風の航空機を用いたドロップゾンデ観測で、それにはダイヤモンドエアサービス株式会社のガルフストリームIV(G-IV)という新しいジェット機を使用するが、それにはドロップゾンデ投下装置が装備されていなかったので、名古屋大学総長裁量経費の支援をうけて新たに開発したドロップゾンデ観測システムを2021年8月に航空機に搭載することができた。それを用いて2021年9月7日、日本海上空でドロップゾンデ投下試験を実施し、高度2万フィートでドロップゾンデ投下を別のジェット機から観察することで、正常に投下されることを確認した。さらにジェット機G-IVには飛行経路上の気温等のデータを取得するシステムを整備した。これにより新しいジェット機で台風の航空機観測を実施する準備が整った。さらにこの航空機を用いてスーパー台風Mindulleの観測を行い、8時間の飛行可能時間を生かして中心から6つの方角に対する観測データを得る「バタフライ型」の飛行経路パターンを初めて実施した。また、このとき南大東島では航空機の通過にあわせて、高層気象観測を実施した。これにより当初の今年度計画のうち航空機観測についての準備と第1回目の観測を計画通り実施することができた。 二重壁雲を形成し壁雲交換が起こった過去の事例として2018年のスーパー台風Tramiについての高解像度シミュレーションを行った。また、静止衛星観測に基づく最新の風速プロダクトを模したデータを同化するパーフェクトモデル実験を実施するなど数値シミュレーションによる研究も進んでおり、赤外衛星観測のデータ同化の準備も進んでいる。これらの結果から今年度はほぼ計画通りに進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降も8~9月に沖縄の南から東の海上領域でのスーパー台風の航空機観測を実施する。これまでと同様にスーパー台風を対象として、眼内部への貫入観測を行い、高度約14kmから海面までの暖気核の全層観測を実施する。また台風周辺の多点にドロップゾンデを投下し、台風の構造と環境場の両方を観測する。観測データは気象庁での台風予報に利用されるとともに、気象庁と協力して世界の気象予報機関に送信する。航空機と同期して南大東島で高層気象観測を実施し、ドロップゾンデ観測データの検証を継続する。また、雲粒子を撮像する特殊ゾンデ観測を実施し、台風周辺に広がる上層の雲の雲物理学的特性をあきらかにする。台風予測の高精度化の目的を達成するため、スーパー台風周辺のドロップゾンデ観測データを、台風の予報モデルに取り込み、台風の進路と強度の予測を高精度化できることを示す。多様な数値モデルを用いて、観測データを同化し、観測された台風の再現実験を行い、急速強化プロセスと二重壁雲の暖気核の力学的・熱力学的構造を解明する。
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