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2023 年度 実績報告書

希土類単酸化物の創製による4f・5d電子系新機能の探索

研究課題

研究課題/領域番号 21H05008
研究機関東北大学

研究代表者

福村 知昭  東北大学, 理学研究科, 教授 (90333880)

研究分担者 岡 大地  東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (20756514)
研究期間 (年度) 2021-07-05 – 2026-03-31
キーワード希土類単酸化物 / エピタキシャル薄膜 / ヘテロ構造 / 5d電子 / 4f電子 / 磁性
研究実績の概要

未合成の希土類単酸化物は、重希土類元素いくつかを残すのみとなった。これまで用いた手法だと、単結晶基板との格子不整合が大きく、低純度の希土類単酸化物薄膜しか得られなかった。そこで、組成で格子定数が可変なバッファー層(Ca,Sr)O固溶体バッファー層を開発した。その結果、不純物がないTbO、DyO、ErOの合成に成功した。DyOとErOは新物質であり、TbOは2022年に初合成を報告したが初めての単相試料である。TbO、DyO、ErOはそれぞれ233 K、142 K、88 Kと高いキュリー温度を示す強磁性体である。共同研究による光電子分光測定から、金属的な電子状態をもつことがわかった。これは遍歴性の5d電子をもつ4fn5d1の電子配置と合致する結果で、論文投稿中である。これらの物質は金属的な電気伝導性と強磁性に伴う異常ホール効果を示すため、磁気伝導特性を現在調べている。残る最後の希土類単酸化物であるTmOは、最長の年数を合成の最適化に割いているが、不純物相を減らすのがきわめて困難である。一方、GdOはCaOバッファー層を用いることで高純度化が可能になったが、電気伝導性が向上しただけでなく、キュリー温度も以前の試料より約30 Kも増加して303 Kと室温に到達し、論文投稿中である。また、NdO超薄膜におけるキュリー温度が倍増した弱強磁性相の観測については、論文発表を行った。
希土類単酸化物のヘテロ接合については、超伝導のLaOと重い電子系金属のCeOからなる良質なヘテロ接合の作製に成功し、電気伝導特性を現在調べている。
また、薄膜作製で用いるエキシマレーザーのガスが入手困難・超高騰化しているため、代替レーザーとしてNd:YAGレーザーを導入したが、エキシマレーザーを用いた場合と同等の結晶性および表面平坦性をもつEuOエピタキシャル薄膜の作製を達成し、論文準備中である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

TmOの高純度化が難しいものの、(放射性元素を除く)ランタノイド元素すべての単酸化物の合成に成功した。特に、可変の格子定数をもつバッファー層を開発することで、化学的により不安定な希土類単酸化物やより高純度の希土類単酸化物を合成することが可能になった。その結果、高い絶縁性をもつ希土類酸化物の安定相R2O3と異なり、希土類単酸化物ROはd電子由来の高い電気伝導性をもつことがわかった。また、基本的に非磁性のR2O3と異なり、ROの半分以上は強磁性を示すこともわかった。特に重希土類元素のROはキュリー温度がEuOよりも高く、GdOに至っては室温強磁性を示す。これらの一連の希土類単酸化物の合成は高く評価され、応用物理学会の会誌に解説を執筆した[応用物理 Vol. 92, No. 10, 655-661 (2023);英訳版JSAP Review 2023, 230216-1-7 (2023)]。また、同様の合成手法を用いて、これまで存在しない非希土類単酸化物の合成も可能なことが期待でき、現在、取り組みはじめたところである。
以上のように、いくつも新強磁性体が発掘されたが、通常の強磁性体と異なる性質も観測されている。NdOは超薄膜でキュリー温度が高い磁性相を生じ、TbOやErOは単に磁化に比例しない異常ホール効果を示す。この特異な挙動については調査を進めている。そして、良質なヘテロ接合の作製も可能になってきており、LaO/CeOヘテロ接合では、強磁性でないCeOがLaOの超伝導を抑制することを発見した。
パルスレーザー堆積法による薄膜合成にはエキシマレーザーを用いるのが一般的であるが、貴ガスの入手が非常に困難な状況である。導入したNd:YAGレーザーでもエキシマレーザーの場合とほぼ同等の品質をもつ薄膜の作製が可能であることがわかり、研究の継続性を確保することができた。

今後の研究の推進方策

ErOが示すキャリアの極性反転や特徴的な磁場依存性をもつ異常ホール効果の再現性を確認し、TbOとDyOとErOの磁気伝導に関する結果をまとめて論文化する。また、TbO超薄膜でも特異な磁性が見つかったため、TbO超薄膜の磁化と磁気伝導性を調べ、特異な磁性の詳細を明らかにする。他の希土類単酸化物のような高純度化が困難であることが判明したTmOについては、混相の試料および不純物相の物性評価を行い、TmOの基礎物性を抽出する。一方、重希土類単酸化物の単相化に有効であったバッファー層を活用して、これまでセスキ酸化物との混相しか合成できなかったYOの単相化に取り組み、そのイントリンシックな物性を再検証する。くわえて、希土類単酸化物すべての合成を達成したので、これまでの知見を活かして、非希土類単酸化物の合成にも取り組む。
昨年度から考察を進めていたNdO/EuOヘテロ構造の磁気伝導について論文化を進める。NdOは軽希土類低温強磁性体であるが、重希土類高温強磁性体であるTbOとEuOのヘテロ構造の物性も調べる。Nd:YAGレーザーでもPt/EuOヘテロ構造を作製できるようになったため、Pt/EuOヘテロ構造の磁気伝導についても論文化を行う。くわえて、EuOよりもキュリー温度が高いTbOを用いて、Pt/TbOにおける磁気伝導やホール効果に関してPt/EuOとの類似性や相違性を明らかにする。また、重い電子系常磁性金属と超伝導体のヘテロ接合であるCeO/LaOにおける電気伝導特性を評価し、重い電子系キャリアと超伝導近接効果の競合を調べる。
希土類単酸化物の固溶体については、予備実験を行ったものの、超伝導や強磁性の転移温度が固溶体の組成に応じて系統的に変化するといった結果で、固溶体で特異な現象が発現する可能性が低い。したがって、固溶体の作製と物性評価はひとまず中断する予定である。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Creation of rare earth monoxides and exploration of new functionalities in 4f-5d electron systems2023

    • 著者名/発表者名
      Tomoteru Fukumura
    • 雑誌名

      JSAP Review

      巻: 2023 ページ: 1-7

    • DOI

      10.11470/jsaprev.230216

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 希土類単酸化物の創製と4f・5d電子系新機能の探索2023

    • 著者名/発表者名
      福村知昭
    • 雑誌名

      応用物理

      巻: 92 ページ: 655-661

    • DOI

      10.11470/oubutsu.92.11_655

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Thickness-dependent magnetotransport properties of rocksalt NdO epitaxial thin films: observation of a ferromagnetic phase far above the Curie temperature2023

    • 著者名/発表者名
      Daichi Saito, Daichi Oka, Kenichi Kaminaga, Miho Kitamura, Daisuke Shiga, Hiroshi Kumigashira, Tomoteru Fukumura
    • 雑誌名

      J. Mater. Chem. C

      巻: 11 ページ: 12400-12405

    • DOI

      10.1039/D3TC02478D

    • 査読あり
  • [学会発表] 重希土類単酸化物エピタキシャル薄膜の単相化と電子・磁気物性2024

    • 著者名/発表者名
      佐々木 智視, 岡 大地, 志賀 大亮, 中田 勝, 和達 大樹, 組頭 広志, 福村 知昭
    • 学会等名
      第71回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] 単相の重希土類単酸化物エピタキシャル薄膜の電子輸送特性2024

    • 著者名/発表者名
      佐々木 智視, 岡 大地, 根岸 真通, 福村 知昭
    • 学会等名
      第71回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] 新希土類単酸化物TmO の薄膜合成と物性2024

    • 著者名/発表者名
      吉村 英竜,岡 大地,根岸 真通,佐々木 智視,福村 知昭
    • 学会等名
      第71回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] 薄膜成長を活用した希土類酸化物の新物質創製2023

    • 著者名/発表者名
      福村知昭
    • 学会等名
      量子材料薄膜の結晶成長研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] Synthesis and magnetic properties of heavy rare earth monoxides REO (RE = Tb, Dy, Er) with divalent rare earth ions2023

    • 著者名/発表者名
      Satoshi Sasaki, Daichi Oka, Daisuke Shiga, Suguru Nakata, Hiroki Wadati, Hiroshi Kumigashira, Tomoteru Fukumura
    • 学会等名
      The 7th Symposium for the Core Research Clusters for Materials Science and Spintronics and the 6th Symposium on International Joint Graduate Program in Materials Science and Spintronics
    • 国際学会
  • [学会発表] Thin-film epitaxy of ferromagnetic semiconductor EuO using pulsed-laser deposition equipped with the fourth harmonic wave of Nd:YAG laser2023

    • 著者名/発表者名
      R. C. Sahoo, Yusuke Sato, Satoshi Sasaki, Masamichi Negishi, and Tomoteru Fukumura
    • 学会等名
      The 7th Symposium for the Core Research Clusters for Materials Science and Spintronics and the 6th Symposium on International Joint Graduate Program in Materials Science and Spintronics
    • 国際学会
  • [学会発表] YOの光学特性におけるクーロン相関効果2023

    • 著者名/発表者名
      村上涼介、神永健一、岡大地、福村知昭、牧野 哲征
    • 学会等名
      令和5年度(2023年) 応用物理学会 北陸・信越支部 学術講演会
  • [学会発表] LuO薄膜における光学的性質2023

    • 著者名/発表者名
      八島聡, 神永健一, 岡大地, 福村知昭, 牧野哲征
    • 学会等名
      令和5年度(2023年) 応用物理学会 北陸・信越支部 学術講演会
  • [学会発表] YbOの光学的性質におけるクーロン相関効果2023

    • 著者名/発表者名
      日紫喜翔、山本卓、岡大地、福村知昭、牧野哲征
    • 学会等名
      令和5年度(2023年) 応用物理学会 北陸・信越支部 学術講演会
  • [学会発表] YOにおける光学定数のハバードエネルギー依存性2023

    • 著者名/発表者名
      牧野哲征, 岡大地, 神永健一, 福村知昭
    • 学会等名
      日本物理学会第78回年次大会

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公開日: 2024-12-25  

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