研究課題/領域番号 |
21H05009
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
須藤 祐司 東北大学, 工学研究科, 教授 (80375196)
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研究分担者 |
山本 卓也 東北大学, 工学研究科, 助教 (10804172)
入沢 寿史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (40759940)
齊藤 雄太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (50738052)
谷村 洋 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70804087)
春本 高志 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (80632611)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | 多形変化 / 相変化メモリ |
研究実績の概要 |
本研究では、結晶多形転移半導体を提案し、その多形転移機構の学理を構築すると共に、多形体薄膜の熱、応力、電界、磁界および光によるメモリ応答制御を目指している。以下に本年度の主な実績を記述する。 相変化メモリの省エネルギー動作化に向け、適切な材料物性や界面物性について数値計算により検討を行った。ジュール加熱による温度上昇に及ぼすトムソン効果は、電極/PCM界面の接触抵抗の寄与を示す無次元数:C=ρ/(Δx/σ)によって支配されることが分かった。ここで、ρは電極/PCMの接触抵抗、ΔxはPCMの厚さ、σはPCMの電気伝導度を示す(T. Yamamoto et. al., Mater. Res. Exp. 8(2021)115902))。更に、動作エネルギーEは、E=κ(1+C)ΔT/Δzによって記述できることを示した。ここで、κは熱伝導度、ΔT は融点、ΔzはPCM厚さを示す(T. Yamamoto et. al., Mater. Des. 216(2022)110560))。 次に、MnTe薄膜上に種々の電極層を形成し、MnTeの多形変化に及ぼす応力(熱歪み)の影響を調査した。MnTe/電極界面に大きな熱歪み(圧縮)が生じる場合は、多形変化温度が低下することが明らかとなった(国内学会3件、国際学会1件発表)。更に、本期間においては、まだ研究報告がないβ―MnTe薄膜(ウルツ鉱型構造)の電気伝導メカニズムを調査した。その結果、幅広い温度範囲において様々なhopping伝導を示すことを明らかにした(M. Kim et. al., phys. stat. soli.(RRL)2100641)、国内学会2件、国際学会2件発表)。また、ラマン分光法を用いて、レーザー加熱によるその場観察から、β―MnTeからα―MnTeへの多形変化が生じることを確認した(国内学会2件発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本期間では、先ず、相変化メモリの省エネルギー動作化に向け、典型的な相変化メモリ素子のメモリ層(相変化材料:PCM)のジュール加熱による温度上昇について、特に、温度上昇に及ぼすトムソン効果を評価するための新しい無次元数を作成した。トムソン効果は、電極/PCM界面の接触抵抗の寄与を示す無次元数:C=ρ/(Δx/σ)に支配されることが分かった。特に、Cが1に近いあるいは1より大きい場合は接触抵抗が無視できなくなる。このような無次元数解析により、動作エネルギーに及ぼす材料物性や接触界面物性の影響を定量的に明示する事が可能となった。更に、相変化メモリ素子の動作エネルギーEは、E=κ(1+C)ΔT/Δzによって記述できることを示し、相変化温度だけでなく、材料の熱伝導度や電気伝導度が低いことに加え、電極接触が低いことが省エネ動作化に重要であることが分かってきた。 次に、MnTe膜上に形成した電極との熱膨張差が大きい場合、即ち、MnTe/電極界面に熱歪みが大きく生じる場合は多形変化温度が低下することが明らかとなり、応力によって多形変化を制御できることが分かってきた。更に、本期間において、まだ研究報告がないβ―MnTe薄膜の電気伝導メカニズムを調査した。β―MnTeは平衡状態では高温安定相であるが、スパッタリング成膜により室温で非平衡相として得られる。調査の結果、120~300Kの温度範囲においてはvariable range hopping伝導を示し、310K以上ではsmall polaron hopping伝導が支配的であることを明らかにするなど、MnTeウルツ鉱構造の電気伝導を明確にした。加えて、ラマン分光法によるその場観察により、レーザー加熱による多形変化を実証した。 以上のように、MnTe薄膜の多形変化に及ぼす熱、応力の影響を明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度以降についても、MnTeをはじめとする多形体薄膜について、熱、応力、電界、磁界及び光による応答制御に挑戦する。これまで、ジュール熱による多形変化に伴う不揮発性メモリ動作を実証しているが、今後は、メモリ素子構造を再検討し、MnTe多形体のメモリ動作の耐久性について調査を進めていく。特に、電極材料との接触界面の物性もメモリ動作に大きく影響を与えることが分かったため、メモリ動作性能に及ぼす電極材料種依存性についても検討する。 また、これまでレーザー加熱による多形変化も確認しているが、今後は、光励起により多形変化が生じるかどうか、MnTeをベースに実験を進めていく。同時に、多形変化に伴う光学物性の変化についてもデータを蓄積していく。 電界による制御については、これまで三端子構造の試作を行ってきたが、今後は、三端子構造素子のON/OFF比やMnTe多形変化チャネル層の不揮発的な物性変化により閾値電圧を変調できるかなどについて評価を進める。また、MnTe薄膜の各多形(ウルツ鉱構造やNiAs構造など)の磁気物性についても評価を進め、磁気応答の可能性を見極めていく。 昨年度までは、多形体としてMnTe二元系薄膜を主対象とした。今後は、MnTeの多形変化に及ぼす添加元素の影響についても調査を進める。特に、多形変化を利用したメモリ動作を実現するには、その多形変化温度を制御する必要がある。そこで今後は、ウルツ鉱型構造やNiAs構造を安定化させる元素添加元素による多形変化制御を試みる。また、元素添加による多形変化温度の制御のみならず、各多形の電気物性や光学物性、磁気物性も多様に変化することも期待できる。更には、MnTe系に囚われることなく、他のカルコゲナイド多形半導体や非カルコゲナイド多形体についても調査を進めていく予定である。
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