研究課題/領域番号 |
21H05019
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石原 一 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (60273611)
|
研究分担者 |
秋田 成司 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (60202529)
芦田 昌明 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (60240818)
余越 伸彦 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (90409681)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
|
キーワード | 光マニピュレーション / ナノダイヤ / オプトメカニクス / 発光 / 誘導放出 |
研究実績の概要 |
本課題では、以下のように発光光圧技術の実現を明瞭に示すための典型的かつ具体的研究課題を取り上げている。[1]誘導放出による光圧発生の実証と発光ナノ粒子の選別を通した発光線狭線化。[2] 金属基板上のペロブスカイト薄膜の発光によるオプトメカニクス機構の実証。[3]極低温下でのμeVオーダーの超精密発光線選別とナノ粒子集団の超蛍光光圧の観測。これらのそれぞれにおいて以下のような成果があった。 [1] 一昨年度、SiV中心含有爆轟ナノダイヤモンド(DND)とGeV中心含有DNDの光圧による分離に成功していたが、その原因は不明であった。理論グループとの議論を通じて、非線形光学効果によることを明らかとした。さらに、誘導反跳力による選別についても、予備的な結果を得た。 [2] 2023年度はペロブスカイト量子ドット発光体を用いて、機械的振動の励振に誘電駆動法を適用し、測定精度およびS/N比を一桁程度向上させ、光誘起熱効果による機械的共振周波数シフトの定量的な評価を可能とした。その結果、熱時定数よりも早い光変調で熱効果が無視できる実験条件を明らかにした。同時に蛍光により機械的振動スペクトルの計測に成功した。これは理論で予測された光共振器内に置かれた物質の電子系を反映したインコヒーレント発光と機械振動の量子ハイブリッド系が実現できたことを示している。 [3] 超流動ヘリウム中における光圧実験に関しては、その流体力学的特徴を明らかにした。さらに、室温において、蛍光ナノダイヤモンドを含有した微小球が超放射を示す兆候を発見した。これは超蛍光を実現する前駆現象を確認したことに対応する。また理論的には、超蛍光による発光圧の理論式を拡張し、光の同一位相点に発光体が多数の存在する系、例えばマイクロシリカ球に埋め込まれたSiV色中心の発光圧をまとめて計算することを可能にした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
それぞれの研究項目において順調に研究が進展し、期待通りの成果が見込まれているが、以下に説明のように計画を超える進展であった。 [1] については計画通り、誘導放出を利用した光圧によるナノ物質制御に取組み、順調に進展している。一方、誘導放出を使わない通常の実験配置においても、既に選別に成功していた理由として、非線形光学現象による機構が提示できたことは、計画を超えた進展と考えられる。[2]については、機械的振動の励振に従来の光熱変調法から誘電駆動法に変更することで測定精度およびそのSN比を一桁程度向上させることに成功し、これにより、計画通り理論で予測された光共振器内に置かれた物質の電子系を反映したインコヒーレント発光(photon)と機械振動(phonon)の結合系が実現できた。また、当初の計画にはなかったが高次機械振動モードも同時に測定できるように測定系を拡張し、異なる機械振動周波数と熱時定数の比に関する検討を可能とした。また[3]については、極低温環境が必須と考えられる超蛍光現象の観測に対して、その前駆現象である超放射を室温で見いだした可能性があり、想定を超えた成果とみられる。さらに超蛍光による発光圧の定式化については、多数の色中心を取り扱う実験に近い状況をシミュレーションすることができるようになり、計画通り進んでいる。一方で、金属ファイバー上の表面に鉛直方向への発光圧の向きを、発光体間隔で制御可能であることを明らかにしたことは、発光体の秩序化に向けて新しいツールを提供するものであり、計画を上回る成果である。 以上のことから「当初の計画以上に進展している」を選択した。
|
今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」欄に記載した具体的研究課題[1][2][3]において、それぞれ以下のように計画する。 [1] 昨年度までに基礎物性を明らかにしたSiV中心含有爆轟ナノダイヤモンドを対象として、昨年度に端緒を得た誘導放出を用いた光マニピュレーションの実験を進める。一方で、SiV中心よりも発光特性に優れるGeV中心含有爆轟ナノダイヤモンドに対する光マニピュレーション実験も開始する。また、昨年度の追加予算でハイブリッド・フォトディテクタを購入・整備しており、それを用いた二光子相関測定によって、爆轟ナノダイヤモンドがSiV中心を1個だけ含有している、すなわち量子通信などに応用可能な単一色中心状態となっていることを確かめる。さらに、同じく追加予算で購入した空間光位相変調器で、光マニピュレーションに有利な波面整形を試みる。 [2] これまでペロブスカイト量子ドット(発光体)を塗布したSi3N4膜(機械的共振器)と基板で構成された光共振器における発光および機械的共振周波数シフトの高精度な測定を実現し、さらに、熱的な影響を解明しその影響を抑制する方法を提案してきた。本年度はこの熱的な影響を抑制する方法をさらに拡張し、光圧由来の機械的共振測定を進める。ここで発光体と金属基板で構成された光共振器長の定量的な解析を行い、発光体誘起の光圧を定量的に求め、理論グループの計算結果と比較し検討する。 [3] 実験グループにより既に超流動He中でのナノ粒子光トラップなどに成功しているが、2024年度は、具体的な実験提案を行うため、SiV中心やペロブスカイトナノ粒子を発光体とし、超蛍光光圧を受けた多数発光体の実時間運動のシミュレーションを行う。その際、発光体の初期状態における励起状態占有率と相関の様々なパターンについて検証する。これにより超蛍光光圧による発光体の自己組織化の可能性について検証を行う。
|