研究課題/領域番号 |
21H05022
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩谷 光彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60187333)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | Chiral-at-Metal錯体 / 動的立体制御 / 不斉金属触媒 |
研究実績の概要 |
Chiral-at-Metal錯体は、化学反応の基質活性化や電子の授受に直接関わりうる金属原子を不斉中心として有し、不斉反応場やキラル物性を提供する物質群である。本研究は、分子設計と配位子置換活性制御に基づく金属中心の不斉誘導法を開拓し、Chiral-at-Metal錯体の動的立体化学制御と不斉触媒反応への応用を図ることを目的とした。 当該年度は、四面体型Chiral-at-Metal錯体(Metal = Zn(II), Ni(II), V(V))およびNヘテロ環状カルベン(NHC)配位子を用いた炭素中心Au(I)六核クラスターを基盤とし、置換活性金属(クラスター)錯体の不斉中心の構築と不斉誘導法を開発した。 ホモキラルな四面体型Chiral-at-Zn(II)錯体による高選択的な不斉oxa-Diels-Alder反応に成功し、また四面体型Chiral-at-Ni(II)錯体の自然分晶と、四面体型および三方両錐型Chiral-at-V(V)錯体のキラル補助配位子による不斉誘導により、いずれの場合もホモキラルな結晶を得ることができ、それらのX線結晶構造を決定した。 さらに、単座の光学活性NHC配位子により、炭素中心Au(I)六核金クラスターの(C)AuI6部分が方向選択的にねじれたキラル構造に誘導することに成功した。X線回折分析の結果、キラルなNHC配位子が結合した金クラスター部分は、Au-Au接触部の方向選択的な結合の伸び縮みによりジアステレオ選択的にねじれ、C1対称性を持ち光学的に純粋な(C)(AuIL)6クラスターに変化することがわかった。さらに、円偏光二色性分光により、方向選択的にねじれたキラルな(C)AuI6構造が溶液中で安定に維持されることが確認された。この結果は、キラルNHC配位子のライブラリーを利用した不斉触媒反応や新キラル材料の開発に展開できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は、光学的に純粋な四面体型Chiral-at-Metal錯体(Metal = Zn(II), Ni(II), V(V)、およびNヘテロ環状カルベン(NHC)配位子を用いた炭素中心Au(I)六核クラスターの完全不斉誘導に成功した。予想より短期間で、光学活性配位子を用いた不斉誘導法を確立し、さらに想定外の自然分晶法によるホモキラル結晶の単離に成功した。後者のX線構造解析により、単一の鏡像体の分子間相互作用が、温度依存的に自然分晶を容易にしたことを明らかにした。自然分晶が可能なラセミ体化合物は、全体の5-10%と言われているが、この結果はより一般性のある自然分晶法に繋がることが期待される。 以下に、これらの二つの不斉誘導の例を挙げて説明する。 【Chiral-at-V(V)錯体の不斉誘導】アキラルな非対称二座配位子を用いて、V(V)を不斉中心とする四面体型Chiral-at-V(V)錯体のラセミ体合成に成功した。これらは、それぞれ光学活性なアルコール配位子や光学活性スルホキシド配位子による配位子交換により、ホモキラルなChiral-at-V(V)錯体に誘導された。現在、不斉触媒反応への応用を検討中である。 【Chiral-at-Metal Cluster錯体の不斉誘導】単座の光学活性NHC配位子により、炭素中心Au(I)六核錯体クラスターの中心部分が方向選択的にねじれたキラル構造に誘導することに成功した。X線回折分析の結果、キラルなNHC配位子が結合した金クラスター部分がジアステレオ選択的にねじれ、C1対称性を持ち光学的に純粋な金クラスターに変化した。さらに、円偏光二色性分光法により、キラルな金クラスター部分の構造が溶液中でも安定に維持されることが確認された。この結果は、キラルNHC配位子のライブラリーを利用した不斉触媒反応や新キラル材料の開発が可能であることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度以降は、キラル補助配位子を用いる不斉誘導法と自然分晶法の検討を継続するとともに、光学的に純粋なChiral-at-Metal錯体を用いて種々の不斉触媒反応を行い、それらの触媒反応機構を実験・計測と理論計算の両面から解明する。具体的な例を下に示す。 (1) 不斉Lewis酸反応(M* = Zn, Ti):Diels-Alder反応、1,2-/1,4-付加反応、アルドール反応、(2) 不斉還元反応(M* = Zn):アルコールデヒドロゲナーゼ様還元反応、(3) 不斉加水分解反応(M* = Zn):meso体基質を用いるリパーゼ様加水分解反応、(4) 不斉酸化反応(M* = V):アリルアルコールのエポキシ化や1,3-水酸基転位反応、(5) 不斉重合反応(M* = V):ラクチドの開環重合反応、(6) 不斉転位反応(M* = Fe):Cloke-Wilson転位反応、(7) 炭素-炭素結合開裂反応(M* = Co) Chiral-at-Metal Cluster錯体については、引き続き、分子設計・合成およびキラリティーの導入と不斉誘導を行う。また、金属クラスターの不斉二量化および触媒活性中心の導入を試みる(右図)。すでに予備実験で、fusion型二量体とface-to-face二量体の合成に成功しており、これらの二量体を架橋するAu(I)イオンを導入すると、この架橋Au(I)が有機化合物と酸化的付加反応を起こすことを見出している。この反応を活用した触媒サイクルの設計を検討する。また、円二色性および円偏光発光測定により金属集積の協同効果を調べる。さらに、高量子収率・長寿命のリン光性Chiral-at-Metal Cluster錯体を探索し、細胞内バイオイメージングへ適用する。
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