研究課題/領域番号 |
21H05024
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
福島 孝典 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (70281970)
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研究分担者 |
庄子 良晃 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (40525573)
梶谷 孝 東京工業大学, オープンファシリティセンター, 特任専門員 (20469927)
福井 智也 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (40808838)
竹原 陵介 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (00869779)
渡辺 豪 北里大学, 理学部, 准教授 (80547076)
二瓶 雅之 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00359572)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | ソフトマテリアル / 2次元分子集合化 / トリプチセン / 有機薄膜 / 自己組織化単分子膜 / 刺激応答 / 酸化物クラスター |
研究実績の概要 |
本研究では、2次元入れ子状ハニカム構造への集合化を強く誘起する三脚型トリプチセン(TP)を基本ユニットとし、薄膜、単分子膜、結晶、バルク固体など、多様な形態とスケールを有する2次元分子集合体の創製を推進している。またトリプチセンに加え、自発的な2次元集合能を有する新しい分子モチーフの開発も展開している。本年度の具体的な研究成果の例を以下に記載する。 (1)TPを側鎖に導入したポリチオフェン誘導体を合成し、固体状態の構造を調べた。剛直な主鎖を有するπ共役高分子においてもTPの能力は損なわれず、ポリチオフェンを特異な構造へと集合化できることを見出した。現在得られた集合体の物性を検討している。また、温度感応性ポリマーであるPNIPAMの両端にTPを側鎖に含むセグメントを導入したトリブロック共重合体を合成したところ、この系においてもTPの2次元集合化により、化学架橋なしにヒドロゲルを形成し、それが温度によって可逆に収縮/膨張することを見いだした。(2)TPを配位子とする新規Zn、Co、およびMn酸化物クラスターの検討過程で、Mn系において極めて高効率な光熱変換特性を見出している。(3)新たに開発したトリカチオン型TPが、MgB2の層間に挿入することを見出した。今後この複合体の物性検討を推進する。(4)TPと類似の2次元集合化挙動を示し、遷移金属イオンを三角格子点上に集積化可能な分子を開発した。(5) 湾曲構造を特徴とするスマネンを基盤とし、前例のない力学特性・応答性、配向特性を示す液晶を開発した。この系においても、2次元に発達した秩序構造が鍵の一つであることを明らかにした。(6)MDシミュレーションにより、TP誘導体が集合化する過程を可視化するとともに、置換パターンの違いが集合化に与える影響を明らかにした。 以上、本研究における物質基盤を確立するとともに多角的な研究展開を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究期間の前半は特に、三脚型トリプチセンの2次元集合化能がどの程度多様な物質系に適用できるかを明示すること、ならびに、2次元集合化を方向付ける新規モチーフを開発することに焦点を当てて研究を推進してきた。これらの目的は申請時の計画通りに順調に進展しており、構築した物質系のそれぞれにおいて、今後大きな発展性と展開可能性が見込まれる。また以下に記載する当初の予想を超えた複数の顕著な成果も得ている。 (成果1)プロペラ型分子の相互貫入を利用した2次元集合構造の設計戦略が、当初の予想を遥かに超えて多種多様な物質系において有効に働くことを実証している。(成果2) 申請書で提案したトリプチセン以外の2次元集合化を示すモチーフを、想定よりも短期間で複数発見している。(成果3)分子量2万を超える液体高分子であるPDMSの系において、わずか2つのトリプチセン基を末端に導入するだけで、自立膜を与えるほどの力学物性と自己修復能を示すという驚くべき現象を見出し、それにより化学架橋を必要としない熱可塑性PDMSの開発に成功している。(成果4)円盤型(トリフェニレン)およびお椀型(スマネン)をメソゲンとし、エステル基を介して側鎖を導入する設計により開発した液晶が、長距離2次元構造秩序を有し、側鎖設計と相まって特異な配向挙動、集団運動性、力学特性を発現するという予想外の現象を見出している。(成果5)大きな目標の一つに掲げた双極性分子ローターの2次元集積化を早期に実現し、特異な回転挙動を示す可能性を示唆する結果を想定よりも短期間で見出している。(成果6)本研究の過程で、合成した新規Mn酸化物クラスター(特許申請中)が、当初全く予想していなかった極めて高効率な光熱変換特性を示すことを発見した。 以上の進展状況に基づき、本研究目的の達成度を「想定を超える研究の進展があり、期待以上の成果が見込まれる」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見に基づき、今後も引き続き2次元集合化を示す分子システムの構築に取り組む。具体的には、(1)三脚型トリプチセンを超分子足場として利用したπ電子系分子・高分子の集積化、(2)層状無機物質を対象とした有機・無機ハイブリッドの創製と機能探求、(3)三脚型トリプチセンを配位子として用いた金属イオンの集積化、(4)三脚型トリプチセンの高分子への導入を通じた集積構造ならびに機械特性の制御、(5)三脚型トリプチセンSAMによる金属・金属酸化物表面機能化、(6)トリプチセン骨格への機能付与を通じた2次元集合体の機能化、および(7)新たな2次元入れ子状分子集合モチーフに関する研究など、多角的な研究展開を図る。また(8)分子動力学(MD)シミュレーションによる2次元集合化の理解に向け、理論・シミュレーションを利用した検討を継続する。さらに(9)2次元構造相関を特徴とするソフトマテリアルの開発については、円盤状分子やお椀型分子をメソゲンとする液晶に関する研究を発展させ、メゾスケールにおいて、特異な集団的分子運動を実現する物質設計指針を確立するとともに、動的特性を新機能や新現象に結びつけるための研究展開を図る。 これらの検討に加えて、次年度からは2次元分子集合体を用いた有機デバイス作製の検討を開始する予定である。単分子膜や薄膜の形態を有する2次元分子集合体を用いて、既存の有機デバイスへの組み込みによる高機能化のみならず、外場印加に対して巨大な応答性を示す有機電子・スピンデバイスや、新たな動作原理で作動する化学センサーなど、新しい機能を示すデバイスの提案を目指す。
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