研究課題/領域番号 |
21H05030
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高山 誠司 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (70273836)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | 植物 / 有性生殖 / 自家不和合性 / 種間不和合性 / 情報伝達 |
研究実績の概要 |
アブラナ科植物の花粉選択の統合分子モデル提唱に向けて、以下の3課題の解明を進めた。 【課題1】異種花粉排除の分子機構解明:昨年度、種間不和合性に関わるSPRI1の相互作用因子として、クチン生合成酵素を見出した。クチクラ層が異種花粉に対する物理的障壁として機能する可能性を推察し、クチン分解酵素によりクチクラ層を破壊した植物体を作出したところ、種間不和合性が打破されることが示された。さらに、新たな種間不和合性因子SPRI2について解析した結果、細胞壁成分のキシランをアセチル化する酵素TBL40/TBL45 の遺伝子領域に結合し、これらの発現を正に制御していることを見出した。SPRI1 の発現亢進に間接的に関わることも示され、SPRI2 が雌ずいにおける異種花粉排除を統括している可能性が示された。さらに、より近縁の異種花粉を対象にGWASによる種間障壁因子の探索を進めたところ、SPRI1/2とは異なる新規種間不和合性因子を同定することに成功した。 【課題2】自己花粉排除の分子機構解明:情報伝達因子探索のための一細胞解析系の確立を進めると同時に、SRK下流で機能すると想定されるチャネル・輸送体分子の逆遺伝学的探索を進めた。その結果、ある特定のチャネル分子群の破壊株が、自家不和合性を欠失することを見出した。 【課題3】同種花粉受諾の分子機構解明と排除経路干渉の実態解明:昨年度、花粉受諾検出システムを用いた順遺伝学的探索により、同種花粉受諾に関わる因子VPS13aを同定した。生化学的な解析から、VPS13a はエキソサイトーシスを仲介するExocyst 複合体のサブユニットタンパク質と花粉管の先端に共局在し、機能相関性があることを見出した。さらに、野生型の花粉では吸水したのちに脂質体が粗面小胞体から解離する現象が起こるが、vps13a 変異体ではこのような解離が起きないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、アブラナ科植物を対象として、雌ずい先端の乳頭細胞が持つ異種花粉排除に関わる種間不和合性経路、自己花粉排除に関わる自家不和合性経路、さらに同種花粉の積極的受入に関わる同種受諾経路、の3経路の理解を深化させると共に、経路間の干渉を含めた花粉選択の統合分子モデルを提唱することを目的としている。これまでに、解明目標として掲げる全3経路において、いずれも手掛かりとなると予測される新たな因子を同定することに成功しており、今後本研究がさらに加速することが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、各課題について、以下の研究を進める計画である。 【課題1】異種花粉排除の分子機構解明:引き続き、SPRI1 の相互作用因子の探索を進め、SPRI1 複合体の構成と機能を生化学的に明らかにする。また、クチクラ層を含む細胞壁構造が種間不和合性における物理的障壁として機能していることを示唆するデータが蓄積しつつある。データを精査すると共に同種花粉がこの障壁を打破する仕組みの解明を進める。一方、SPRI2 に関しては、下流の標的遺伝子の解析を進め、乳頭細胞内の種間不和合性因子の発現を統括している可能性を追求する。また、より近縁の花粉に対して種間不和合性をもたらす雌ずい側の新規分子に関しては、花粉側の相互作用分子の特定を進め、作用機序を明らかにする。 【課題2】自己花粉排除の分子機構解明:自家不和合性への関与が示唆された新規チャネル分子候補について解析を進める。本候補はファミリーを構成するため、多重変異体を作出し、シグナル伝達系への関与の確証を得る。特に、SP11-SRK のリン酸化経路の下流でこのチャネルが制御される生化学的なメカニズムや、チャネルのCa2+の透過能の解析を進める。さらに、一細胞スクリーニング系を駆使し、本シグナル伝達経路の全容解明を目指す。 【課題3】同種花粉受諾の分子機構解明と排除経路干渉の実態解明:乳頭細胞に花粉受諾情報を送らないvps13a 変異体の解析を継続する。近年の生化学的な研究や構造生物学的知見から、VPS13 はリン脂質輸送分子の一種であると推察されている。変異体花粉におけるリン脂質構成や輸送制御について解析を進め、同種受粉受諾における機能の解明を目指す。
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