研究課題/領域番号 |
21H05031
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
束村 博子 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (00212051)
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研究分担者 |
大蔵 聡 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20263163)
平林 真澄 生理学研究所, 行動・代謝分子解析センター, 准教授 (20353435)
羽田 真悟 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (40553441)
真方 文絵 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (50635208)
上野山 賀久 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (70324382)
大石 真也 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (80381739)
井上 直子 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (90377789)
中村 翔 岡山理科大学, 獣医学部, 講師 (50829223)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | 卵胞発育・排卵制御 / 家畜の繁殖促進技術 / 生殖中枢キスペプチンニューロン / エストロゲン / 性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH) / 黄体形成ホルモン(LH) / 弓状核 / 前腹側室周囲核(AVPV) |
研究実績の概要 |
本研究は、哺乳類メスにおける「排卵」と「卵胞発育」を制御するエストロゲンの正と負のフィードバックのメカニズムを、生殖中枢キスペプチンニューロンに着目して解明し、ラットなどモデル動物で得られた知見をヤギ・ウシなど家畜に活用し新たな繁殖制御法の開発に資することを目的とする。2021年度には、Kiss-Creラットを用いて、正負フィードバックの分子機構の解明に資するキスペプチンニューロン常時可視化ラットの作製に成功した。今後、この遺伝子改変ラットを活用し、エストロゲンがキスペプチンニューロンにおける遺伝子発現に及ぼす影響をRNA-seqにより網羅的に解析し、エストロゲンに応答して発現が変動する遺伝子リストを得る。また、エストロゲンの負のフィードバックを担う卵胞中枢弓状核キスペプチンニューロンを抑制的に制御する因子として、ダイノルフィン、エンドルフィンおよびソマトスタチンニューロンの役割を明らかにした。具体的には、低濃度エストロゲン処置をした卵巣除去ラットにおいて、低栄養による黄体形成ホルモン(LH)のパルス状分泌の抑制が、ダイノルフィンあるいはエンドルフィン受容体拮抗剤が阻害することを示し、これらのオピオイドニューロンが卵胞発育中枢を抑制することを明らかにした。さらに、エストロゲン処理した泌乳後期ラットにおいて、ソマトスタチンニューロンが弓状核におけるKiss1発現の抑制とLHパルス抑制を仲介することを明らかにした。加えて、正のフィードバックのメカニズムとして、高濃度エストロゲンが、ATPを神経伝達物質とするプリン作動性神経の神経活動を活性化し、排卵中枢である前腹側室周囲核に局在するキスペプチンニューロンを促進的に制御する事を明らかにした。さらに、このプリン作動性神経が延髄から投射していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の殆どの実験において、順調に研究が進捗し、当初の計画を上回る大きな成果が得られた。具体的には、エストロゲンの負のフィードバックを担う卵胞中枢弓状核キスペプチンニューロンを抑制的に制御する因子として、低栄養時や泌乳ラットにおいて、ダイノルフィン、エンドルフィンおよびソマトスタチンニューロンの役割を明らかにし、Endocrinology誌など計12報の論文を公表することができた。さらに。エストロゲンの正のフィードバックを仲介する前腹側室周囲核のキスペプチンニューロンに対して、エストロゲン依存性にプリン作動性神経が促進的に制御する事を明らかにし、この成果がJ Neuroscienceの表紙にも採択され、プレスリリースされるなど大きな成果が得られた。その一方で、コロナの影響で、一部の資材が予定通り入手できなかったこと等により、一部の実験(in vivo Ca2+イメージング解析の研究等)の実施が遅れたため、これに関わる予算を繰り越した点を勘案し、「概ね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
作製に成功したキスペプチンニューロン常時可視化ラットを活用し、今後、エストロゲン処置・無処置のラットから赤色蛍光を指標として細胞を単離回収し、この細胞のRNA-seqにより遺伝子発現を網羅的に解析する。これにより、キスペプチンニューロンにおいて、エストロゲンに応答して発現が変動する遺伝子リストや、弓状核あるいはAVPVのキスペプチンンニューロンで特異的に発現が高い遺伝子リストを得る。さらに、これらの遺伝子リストより、有力な候補遺伝子(受容体、転写活性因子など)を選抜し、それらの生理的な役割を、ラットをモデルとして明らかにする。このため、ラットを用いて候補因子の拮抗薬や作動薬の脳内投与が、脳内Kiss1発現、キスペプチンニューロンの活動、およびLH分泌に及ぼす効果を明らかにする。さらに、現有のKiss1-Creラットを活用し、弓状核やAVPVへ候補転写因子のshRNAを投与し、脳内Kiss1発現、キスペプチンニューロンの活動、およびLH分泌に及ぼす効果を明らかにする。また、ヤギを用いて、弓状核における多ニューロン発火活動(MUA)によりGnRHパルスジェネレータの活動をモニターしつつ、ラットで得られた有力な候補因子を脳内投与し、MUAへの効果を確かめ、卵胞発育中枢制御剤として活用出来る候補因子を絞り込む。加えて、ウシにおける繁殖障害の状況を調査し、候補因子の繁殖機能への効果を明らかにするための準備を行う。
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