研究課題/領域番号 |
21H05032
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高野 義孝 京都大学, 農学研究科, 教授 (80293918)
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研究分担者 |
大木 進野 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 教授 (70250420)
尾瀬 農之 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (80380525)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | 植物病原糸状菌 / 宿主特異性 / エフェクター / 炭疽病菌 / ウリ科作物 / 耐病性作物 |
研究実績の概要 |
本研究では、宿主特異性成立に関与する植物病原菌エフェクター(EPC1、EPC2、EPC3)の解析を起点に、エフェクターを介した植物病原菌の宿主特異性成立の分子基盤を解明することを目的とする。本年度は、まずエフェクターEPC1、EPC2、EPC3をベンサミアナタバコ葉に一過的に発現させ、その発現が同植物のPAMP誘導免疫に与える影響を調べた。その結果、EPC1、EPC2、EPC3いずれも、細菌のPAMP(flg22)が引き起こす活性酸素生成を抑制することを明らかにした。続いて、エピトープタグを付加した各EPCエフェクターをベンサミアナタバコ葉およびメロン子葉に一過的に発現させ、続いて免疫沈降解析を実施し、共沈降してくるタンパク質について、LC-MS/MS解析を実施し、標的因子候補のリスト化を完了した。また、EPC3の特定の領域について、その領域のみで機能が保持されることを明らかにし、さらにその領域を発現させた場合は、発現タンパク質が可溶化することを見出している。ウリ科作物への宿主特異性に関わるエフェクターを網羅的に同定するために、ウリ類炭疽病菌とウリ類炭疽病菌が属するオービクラクレード内の別種に対する比較オミクス解析を実施し、ウリ類炭疽病菌の分離株すべてにおいて存在し、他種では必ずしも存在しない遺伝子群、あるいは、ウリ類炭疽病菌において発現するが他種では必ずしも発現しない遺伝子群の選抜を完了した。さらに最近になり、EPC4と命名した新規のエフェクターの発見に成功している。EPC4は、EPC1、EPC2、EPC3と同様にウリ科作物への病原性には必要である一方、ベンサミアナタバコへの病原性には必須ではない。EPC4について、その一過的発現解析を実施した結果、EPC4がflg22が誘導する活性酸素生成を抑制することを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、発見した宿主特異性成立に関与する植物病原菌エフェクター(EPC1、EPC2、EPC3)の植物免疫抑制能を調査し、その明確な抑制能を明らかにすることに成功している。さらに新たに発見に成功してるEPC4の植物免疫抑制能も明らかにしている。また、EPCエフェクターを発現後に免疫沈降解析を実施し、共沈降してくるタンパク質について、LC-MS/MS解析を実施して、EPC1、EPC2、EPC3の標的候補のリスト化を完了している。この解析はEPCエフェクターの機能解明において非常に重要なステップと位置付けられる。エフェクターの構造解析については、EPC3の特定の領域のみで機能が保持され、かつ、その領域を発現させた場合は、発現タンパク質が可溶化することを見出し、構造決定に向けての大きな前進である。さらにウリ科作物への宿主特異性に関わるエフェクターを網羅的に同定するために必要なオミクス解析も完了している。以上より、本研究は非常に順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり、研究は非常に順調に進んでいる。今後の研究の推進方策としては、まず、発見に成功しているEPCエフェクター(EPC1、EPC2、EPC3、EPC4)の植物免疫抑制能、あるいは、植物細胞に発現させた場合の当該エフェクターの細胞内局在性などを調査していく予定である。さらに、エフェクターEPC1、EPC2、EPC3については、そのターゲット候補のリスト化を完了しているので、それらの候補に対して更なる絞り込みを実施していく。これらの研究により、EPCエフェクターの機能を解明していく。また、EPC3については、標的因子との複合体解析も含めて、その構造解析に特に注力していく方針である。他のEPCエフェクターについても構造解析に向けての研究に着手する。さらにウリ科作物への宿主特異性に関与する新規の炭疽病菌エフェクターの探索も推進し、植物病原糸状菌の宿主特異性成立に必要なエフェクター群の全貌をつかんでいきたいと考えている。
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