研究課題/領域番号 |
21H05037
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
濡木 理 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10272460)
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研究分担者 |
藤芳 暁 東京工業大学, 理学院, 助教 (70371705)
小笠原 諭 千葉大学, 大学院理学研究院, 特任准教授 (30546685)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | GPCR / 生体膜 / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、さまざまなGPCRを対象に、リガンドと受容体との相互作用やアゴニストの結合様式を解明し、それらがシグナル伝達や生理学的特性にどのように関与しているかの解明を目的としている。特に、交感神経を司るβアドレナリン受容体のうち、β1とβ2受容体は2007年頃の最初期に構造が決定されたGPCR研究のファーストランナーだったが、それから14年もの間、β3受容体の構造だけは報告されていなかった。そこで我々はヒトではなくイヌ由来β3受容体が構造解析に最適であることを見出し、過活動膀胱治療薬ミラベグロンが結合した構造を報告し、薬剤の選択性の分子基盤を明らかにできた。PTH1Rについては、PTH結合型とPTHrP結合型のPTH1Rの構造をCryo-EMで決定し、比較することで、リガンドとレセプターの相互作用の違いやリガンドの親和性や選択性の違いを明らかにした。PTHとPTHrPの結合した5つの構造から、リガンドが受容体から解離するユニークで複雑な過程を理解し、PTHとPTHrPが引き起こすシグナル伝達の異なる持続時間を解明した。 また個々のGPCR構造解析だけではなく、周辺の要素技術の開発も進んでおり、これは当初の想定以上の成果である。まず、簡便なナノディスク再構成法が開発され、これによりオンカラムで迅速かつ高純度に膜タンパク質の精製が可能になった。また、オンカラム中で高効率にナノディスク化した膜タンパク質の精製プロトコルが確立され、これにより従来の方法よりも迅速かつ効率的な解析が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、さまざまなGPCRを対象に、リガンドと受容体との相互作用やアゴニストの結合様式を解明し、それらがシグナル伝達や生理学的特性にどのように関与しているかを解明した。これらの業績を代表研究者濡木がラストオーサーとして、Nature誌を含む7報の論文としてまとめており、卓越した研究成果をあげているといえる。特に、交感神経を司るβアドレナリン受容体のうち、β1とβ2受容体は2007年頃の最初期に構造が決定されたGPCR研究のファーストランナーだったが、それから14年もの間、β3受容体の構造だけは報告されていなかった。そこで我々はヒトではなくイヌ由来β3受容体が構造解析に最適であることを見出し、過活動膀胱治療薬ミラベグロンが結合した構造を報告し、薬剤の選択性の分子基盤を明らかにできた。PTH1Rについては、・PTH結合型とPTHrP結合型のPTH1Rの構造をCryo-EMで決定し、比較することで、リガンドとレセプターの相互作用の違いやリガンドの親和性や選択性の違いを明らかにした。 PTHとPTHrPの結合した5つの構造から、リガンドが受容体から解離するユニークで複雑な過程を理解し、PTHとPTHrPが引き起こすシグナル伝達の異なる持続時間を解明した。 PTH1Rに結合するアゴニストとの複合体の構造機能解析に成功し、細胞内側に結合するバイアスアゴニストPCO371の作用機構を明らかにした。これにより、特定のシグナル伝達経路を優先的に調節する方法が提案された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、標的GPCRのナノディスク環境での複合体の構造を網羅的に解析し、界面活性剤環境下との構造や構造多型の違いを解析する。特筆すべき点は、界面活性剤環境下で観察されたPTH1Rの構造多型がナノディスク環境でも観察されるかや、脂質受容体の場合内在性脂質アゴニストのセカンダリー結合サイトが存在するか、等である。計画に含んでいた、唯一の機械刺激受容体GPCRであるGPR68の構造解析にも取り組む。機械刺激膜蛋白質は脂質との相互作用が活性化に重要であり、脂質構成によって活性が大きく変わるため、GPR68を様々な組成の脂質を用いてナノディスクに再構成し、Gq蛋白質との複合体形成能を網羅的に検討する。複合体が形成できた場合は、Cryo-EMを用いて構造解析を行い、機械刺激によるGPR68の活性化機構を解明する。ナノディスク環境出られたGPCR構造を元に分担者の井上飛鳥教授と共同で機能解析を行い、構造から得られた知見を実証する。 脂質受容体ヘテロダイマーについては生理的な機能なども不明であり、共役するGタンパク質も分からない状況にあるため、まずはヘテロダイマーの精製産物を用いて共役するGタンパク質をin vitroで探索する。分担者の井上飛鳥と共同で、細胞アッセイによってLPA1とS1P1共発現による機能への影響も検証する。さらに、Gタンパク質との複合体の再構成系の構築に取り組み、最終的には精製産物を用いてクライオ電子顕微鏡による単粒子解析を実施し、ヘテロダイマーの構造情報取得を目指す。
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