研究課題/領域番号 |
21H05039
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 恭之 京都大学, 医学研究科, 教授 (50580974)
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研究分担者 |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | 細胞競合 |
研究実績の概要 |
生物個体を構成する細胞社会において、異なる性質を持った異常な細胞が出現した時、正常細胞と異常細胞の間で互いに生存を争う「細胞競合」と呼ばれる現象が生じることが近年の研究によって明らかになってきた。細胞競合は、ショウジョウバエや哺乳類など様々な生物種で生じる進化の過程で保存された重要なホメオスタシス維持機構である。しかし、以下の二つの最も本質的な「問い」が未解明のまま残されている。i)隣接する細胞のどのような違いをどのように認識するのか? ii) 様々な性質の違いを持った細胞を排除する普遍的な分子メカニズムが存在するのか? 本研究では、細胞競合における最も重要な2つの課題の解明に取り組み、細胞競合現象の本質的な理解を目指す。 (課題1)細胞競合を誘起する細胞間認識機構の解明:上皮細胞層において、各々の細胞は隣接する細胞のシグナル伝達、ストレスや代謝などによって生じる多様な「違い」を認識し、それがトリガーとなって細胞競合が生じる。本研究分野で最も重要な課題は、各々の細胞が、隣接する異なる性質を持った細胞を認識する分子メカニズムの解明である。化学的な変化のみならず、何らかの物理的変化を認識するメカノセンサーが関与している可能性についても考慮する必要がある。 (課題2)細胞競合を制御する普遍的な分子メカニズムの解明:多様な細胞競合現象が、何らかの共通の分子メカニズム、あるいは異なる分子メカニズムで制御されているのかは、明らかになっていない。 本研究では、藤田と井垣が統合的にスクリーニングを行い、細胞競合現象を制御する分子を網羅的に同定する。同定した分子の機能を互いの系で解析し、得られた知見をフィードバックさせることによって、動物種を超えた普遍的な分子メカニズムの解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)細胞競合による活性酸素種(ROS)とカルシウムスパークの役割の解明(藤田);がん原性変異細胞およびアポトーシス細胞の排除が細胞外ATPおよびROSを介して普遍的に制御されていることを示し、Current Biology誌に報告した(Mori et al., 2021)。細胞競合現象の初期において、正常細胞におけるTRPC1を介したカルシウムスパークが上皮細胞層全体の流動性を亢進し、変異細胞の排除を促進することを明らかにし、Cell Reports誌に報告した(Kuromiya et al., 2022)。 (2)synNotchを用いた細胞競合制御因子スクリーニング(藤田);近年開発された技術synNotchを用いた細胞競合制御因子のスクリーニングにより、新規細胞競合制御因子を複数同定することに成功した。セリンスレオニンキナーゼをコードするPrkg2、及び足場タンパク質をコードするTrib2が細胞競合を正に制御することを見出した。さらに、それらの因子の上流解析を行った結果、転写因子NF-κB が変異細胞に接する正常細胞内でPrkg2, Trib2の発現上昇を担っていることが明らかとなった。 3)ショウジョウバエを用いた細胞競合制御タンパク質の同定(井垣);ショウジョウバエ成虫原基をモデル系として用い、細胞競合を制御する因子を同定するための遺伝学的スクリーニングを行った。その結果、「勝者-敗者間のタンパク質合成能の差が敗者細胞のオートファジー誘導に必要である」ことを強く示唆するデータを得た。さらに、勝者-敗者細胞クローン間の境界面でCa2+シグナルの活性変化が起こり、それが細胞競合誘導に必要であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
1)synNotchを用いた細胞競合制御因子スクリーニング(藤田);RNAseqの結果得られた候補因子の個別検討を引き続き進めていく。候補因子のノックダウンや阻害剤処理が変異細胞排除に与える影響を検討することで、その因子の細胞競合への関与を調べていく。また、新たに同定された細胞競合制御因子の上流解析を行い、正常細胞による変異細胞の認識機構の解明を行う。細胞競合における変異細胞の認識、細胞内シグナル伝達、変異細胞の排除へと至る機構の全容解明を目指す。 2)細胞競合を制御するCa2+シグナルの上流・下流因子の同定(井垣・藤田);勝者-敗者間のタンパク質合成量の差がどのような小分子の量的・質的変化を介して敗者細胞のオートファジーを誘導するのか、その詳細な分子機構を明らかにしていく。特に、勝者細胞に近接する敗者細胞でCa2+シグナル活性が変化しているというこれまでの予備的知見に基づき、Ca2+シグナルを変化させうる分子群に着目しながら解析を進める。藤田による哺乳類細胞系での解析で見出される細胞競合制御因子に関する知見も取り入れながら解析を進めることで、細胞競合の普遍的メカニズムを明らかにしていく。 3) 同定した分子群のin vitro, ex vivo, in vivo におけるさらなる機能解析(藤田・井垣);スクリーニングにて同定された分子については、ショウジョウバエと哺乳類のin vitro, ex vivo および in vivoにおける機能解析を行う。哺乳類の ex vivo および in vivo 解析には藤田が開発した細胞競合マウスモデルを用いる。膵管、気管支、乳腺、肺などの器官由来のオルガノイド培養と組織解析において検証を進める。
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